研究課題
これまでの我々の疫学調査から、沖縄県は他県と比較し頭部血管肉腫が多発する地域であり、次世代シーケンサーを用いた腫瘍組織の網羅的遺伝子発現解析を積極的に行ってきた。癌ゲノムデータベースであるThe Cancer Genome Atlasに登録される1万以上の癌RNA-seqデータとの比較解析からも、頭部血管肉腫は特異的な遺伝子発現パターンを示すことを明らかにしている。バイオインフォマティクス解析手法の活用をもとに、すでに教室に蓄積されている組織検体の解析をさらに進め、頭部血管肉腫に特異的かつ腫瘍原性の基軸となる蛋白の同定を試み、頭部血管肉腫の治療標的となりうる蛋白の特定を目指している。すでに我々は16症例の頭部血管肉腫腫瘍組織凍結検体由来RNAを用いたトランスクリプトームデータを有しているが、さらに症例数を増やすために当科に保存されていた9例のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)腫瘍検体由来RNAを用いたトランスクリプトーム解析を行った。異なる保存方法の検体から遺伝子発現解析結果にバイアスが生じることが考えられたが、FFPE検体は凍結検体の遺伝子発現プロファイルと非常に高い相関を示すことを明らかにし、比較解析に十分耐えうることを示した。これら9検体を、5例の生存期間が3年以上の長期生存群、4例の生存期間が1年以下の予後不良群の2群に分け、遺伝子発現変動解析を行った。免疫チェックポイントに関連する遺伝子群のうちSIRPαに統計学的に優位な差が、またCD47に2群間に大きな発現変動差があることを明らかにした。マクロファージに発現するSIRPαと腫瘍細胞に発現するCD47タンパク質が結合することによりマクロファージの貪食作用が抑制されることが知られている。今後、これらの遺伝子に着目し、頭部血管肉腫に対するチェックポイント阻害剤などの分子標的療法の足がかりとなる研究をすすめる。
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Scientific Reports
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https://doi.org/10.1093/gbe/evz007