研究課題/領域番号 |
18H06194
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
萬代 新太郎 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 非常勤講師 (50824330)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | WNK / 骨格筋 / 腎臓 / サルコペニア / シグナル伝達 / リン酸化 |
研究実績の概要 |
サルコペニア(加齢, 慢性疾患による骨格筋量・筋力の低下)の病態解明は未だに不十分であり,運動や食事療法以外に有効な治療法が確立していない。本研究では,遺伝性高血圧疾患の原因遺伝子かつ血圧制御因子として従来知られるWNK(with no lysine)1キナーゼによる骨格筋肥大の新たな制御機構を解明し,サルコペニアの治療戦略を創出することが目的である。本研究はこれまでに,骨格筋WNK1の生理機能について以下を示した。 ①骨格筋細胞の肥大制御:マウス骨格筋培養細胞C2C12細胞において,WNKアイソフォーム1-4の中WNK1のみが発現しており,筋管細胞への分化誘導に伴いタンパク発現量が経時的に増加した。siRNAによるWNK1ノックダウン,またはWNKのキナーゼ活性阻害剤WNK463の投与を行うと,筋管細胞径の顕著な萎縮ならびに筋萎縮関連遺伝子(atrogene)atrogin-1,MuRF1の転写増加を認めた。②Forkhead box protein Oアイソフォーム4(FOXO4)の機能調節:WNK1ノックダウンを行ったC2C12細胞では,atrogeneの主たる転写因子FOXO1/3a/4の中FOXO4の核内発現量が選択的に増加した。siFOXO4を同時に行うと筋管細胞萎縮とatrogene転写増加が完全にキャンセルされた。③マウス骨格筋におけるatrogene転写制御:WNK463を野生型マウスに経口投与すると,用量依存的にatrogin-1,MuRF1の転写が増加した。さらにアデニン腎症による慢性腎臓病・サルコペニアモデルマウスを作成すると骨格筋WNKシグナルが減弱する一方で,回し車による長期運動トレーニングによりWNK1タンパク発現量が増加することを示した。 以上の結果は,培養細胞のみならず生体においても,WNK1が骨格筋肥大の制御に深く関与することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
WNK1キナーゼは従来,尿細管上皮細胞, 血管平滑筋に発現し生理的に血圧,体液量を制御する重要な因子として知られる。一方で近年,免疫細胞の機能やオートファジーを制御するなど,生体の恒常性維持に重要な新たな機能も報告され非常に注目されている。 本研究ではまず培養細胞実験によって,WNK1が長寿遺伝子としても知られるFOXO4の機能調節を介し,強力に骨格筋細胞の肥大,atrogeneの発現を制御することを見出した。さらにマウス生体においても,WNK阻害剤の経口投与によって培養細胞以上に強力にatrogeneの転写が誘導されることを示した。生理的な骨格筋肥大刺激である運動がWNK1のタンパク発現量を増加させることも合わせて,WNK1が骨格筋において極めて重要な役割を果たしていることが示唆される。 まずここまでのデータをまとめ,昨年国際学会での発表,論文発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はWNK1-FOXO4-atrogeneという新しいシグナル伝達経路を同定し,サルコペニアの分子病態の解明に寄与することが期待される。今後さらに,マウス生体における機能解析を中心に以下の実験を予定する。 ①WNK1によるFOXO4リン酸化制御:FOXO4は主にリン酸化による核外移行,不活化によってatrogene転写活性を調節されている。骨格筋細胞,マウス骨格筋双方においてWNKキナーゼ活性の阻害剤WNK463が強力にatrogene転写を誘導したことから,まずはWNK1がFOXO4のリン酸化に関わるか検証する。リン酸化が確認された場合,リン酸化部位の特定,ならびに同部位のリン酸化がFOXO4の核内外局在ならびにatrogene転写活性に及ぼす影響を検証する。②WNK1ノックアウトマウスの解析:既に保有するWNK1ヘテロノックアウトマウスにおいて骨格筋量,筋線維サイズや運動機能といった表現型の解析を行う。③骨格筋WNKシグナルの生理修飾因子の探索:野生型マウスを用いて,食事内容やインスリンなど骨格筋WNKシグナルに影響する運動以外の生理修飾因子を検証する。 本邦でも高齢者の約5人に1人,重症の慢性腎臓病患者においては約2人に1人がサルコペニアを合併することが知られる。本研究は,慢性腎臓病が骨格筋WNKシグナルを減弱させることも見出しており,これを特異的に活性化する治療戦略の開発も視野に入れて,引き続き研究計画を遂行する予定である。
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