研究実績の概要 |
サルコペニア(加齢, 慢性疾患による骨格筋量・筋力の低下)の病態解明は未だに不十分であり,運動や食事療法以外に有効な治療法が確立していない。本研究では以下の,遺伝性高血圧疾患の原因遺伝子かつ血圧制御因子として知られたWNK(with no lysine)1キナーゼによる骨格筋肥大の新たな制御機構を示した。 ①骨格筋細胞の肥大制御:マウス骨格筋培養細胞C2C12細胞において,WNKアイソフォーム1-4の中WNK1のみが発現しており,筋管細胞への分化誘導に伴いタンパク発現量が経時的に増加した。siRNAによるWNK1ノックダウンないしWNKのキナーゼ活性阻害剤WNK463の投与を行うと,筋管細胞径の顕著な萎縮ならびに筋萎縮関連遺伝子(atrogene)atrogin-1,MuRF1の転写増加を認めた。②Forkhead box protein Oアイソフォーム4(FOXO4)の機能調節:WNK1ノックダウンを行ったC2C12細胞では,atrogeneの主たる転写因子FOXO1/3a/4の中FOXO4の核内発現量が選択的に増加した。siFOXO4を同時に行うと筋管細胞萎縮とatrogene転写増加が完全にキャンセルされた。さらにWNK1はFOXO4のリン酸化を介しatrogeneの転写活性を制御することを示した。③マウス骨格筋におけるatrogene転写制御:WNK463を野生型マウスに経口投与すると,用量依存的にatrogin-1,MuRF1の転写が増加した。さらにアデニン腎症による慢性腎臓病・サルコペニアモデルマウスを作成すると骨格筋WNKシグナルが減弱する一方で,回し車による長期運動トレーニングによりWNK1タンパク発現量が増加することを見出した。 以上の知見から,WNK1-FOXO4-atrogeneシグナル伝達経路はサルコペニアの新たな治療ターゲットとなることが期待される。
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