研究課題/領域番号 |
18H06196
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
渡邉 真 京都大学, 医学研究科, 特定病院助教 (20823082)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 心不全 / 小胞体ストレス / 低酸素 / VCP / KUS |
研究実績の概要 |
VCP(Valosin-containing protein)は、ATPase活性を有し、細胞内の異常蛋白質の処理など重要な役割を担う蛋白質である。KUS剤(Kyoto University Substance)は、VCPのATPase活性のみを選択的に低下させることを目的として開発された。KUS剤は細胞内のATPを維持する作用、小胞体ストレスを軽減する作用を有することが報告され、網膜虚血モデル及び心筋虚血再灌流障害モデルにおいて改善効果が実証されている。 本研究では同じく細胞内ATPの減少や小胞体ストレスが増大するといわれる左心不全におけるKUS剤の治療的効果について、マウス心不全モデルを用いてさらに明らかにし、臨床応用の可能性を探ることを目標とした。 平成30年度、我々はマウス心不全モデルを作成し心不全早期でのKUS投与実験において予防効果を、心不全晩期からのKUS投与実験において改善効果を評価した。早期投与実験では心不全進展の過程で認められる心肥大の抑制が確認され、in-vitro実験でも心不全と同様の状況としてカテコラミン投与した心筋細胞にKUS投与を行ったところ心肥大が抑制されていたことを確認している。 さらにマウス心不全モデルにおいて心不全がある程度完成された晩期からのKUS投与も行ったが、KUS群では心機能低下を有意に抑制しており、心不全の進展抑制効果が確認されている。 早期・晩期投与実験では今のところ問題となる有害事象は認めておらず、KUSの心不全に対する治療薬としての可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
KUSの薬物動態は今までの実験では明らかでなく、当初半減期が非常に速いもしくは薬効が非常に短いと考えられていたため、マウスにラット用の大きな注入ポンプを皮下に植え込んでいた。ポンプが大きいため大きなマウスを使用していたが通常の心不全モデルと比べ心不全の程度がばらつきの多くなったり、ポンプが体外にでてしまうといった問題点が浮上し研究早期は進展しなかった。 しかしながら皮下注射を毎日するプロトコールに変更した後は実験結果は安定し、幸運にも良い結果に恵まれた。当初のin-vivoでの有効性の確認が1年目にして得られ、当初の遅れを取り戻した状況である。 また臨床上最も有意義である、心不全がある程度進展した状況からの薬剤投与でも有効性が示され、臨床応用する上で非常に良い傾向と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後in-vivoおよin-vitroでRNA等の解析を行う予定で心不全におけるKUSの保護効果のメカニズムを探索する予定である。 マウス心不全モデルに関しては薬剤の量、投与方法及び投与間隔等の最適化を行う予定である。これは臨床応用に向け副作用を知る上でも重要と考えている。 また心不全進展にKey moleculeとされているSERCA2aはカルシウム依存性のATPaseである。KUSはATPaseであることからSERCA2aまでを阻害してしまう可能性がある。この懸念を払拭するためにマウスもしくはラットから心筋を単離しカルシウム動態を測定する実験系を立ち上げている。この実験系によりカルシウム動態に最も関与されると思われるSERCA2aがKUSにより抑制を受けていなければ、KUS投与下でもカルシウム動態は影響をうけないと結論付けられる。カルシウム動態は心機能を反映するため重要と考えている。 ブタ等の大型動物が得られた場合には心不全モデルを作製した後各種の心機能評価ツールを用いてKUSの急性投与実験も行う予定である。 肺高血圧症は心不全と同様に低酸素及び小胞体ストレスが関与するといわれている心疾患である。マウスもしくはラット肺高血圧モデルでのKUS投与実験を行う予定である。 また我々は既に血管平滑筋細胞の単離に成功しているため、この細胞を使用し肺高血圧分野のin-vitro実験を行う予定。
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