心臓移植は、重症心不全に対する最終的な治療として世界的にその重要性が唱えられている。一方、日本での最大の問題点はドナー不足であり、移植待機中に亡くなられる患者や海外渡航による移植が後を断たない。そこで、本研究ではドナー候補でありながら、心機能の点から心移植を断念する例(主として心停止ドナー)を想定した動物モデルに対して、体外循環を用いた調節再灌流を行うことにより心蘇生を行い、移植に適するまでに心機能が回復することを実験的に証明することを 目的とした。 マージナルドナーである心停止ドナーからの心臓移植に関しては、通常の脳死ドナーに比べ心臓の虚血時間が長く、また、脳死ドナーでは通常認められない温虚血が存在することから、心機能に与える影響が非常に大きい。そのため、実際に移植する前に、摘出心が移植に耐えうるか心機能を評価することは臨床的に非常に重要となる。今回使用したポータブル心臓灌流装置は、心臓のみを灌流保存することができ、またその装置内で心機能の測定が可能となるシステムである。今回の検討ではブタを用いて心停止ドナーモデルを作成し、このポータブル心臓灌流装置内で、灌流保存及び心機能評価を行なった。 結果として、ポータブル心臓灌流装置を用いて心臓を灌流することは可能であった。特に、生体外での評価が難しいとされる、右室機能の測定も行い、心臓移植で一般的に問題となる右室不全の移植前評価が可能であることが示唆された。心機能はベースラインに比べ、約75%と低下が認められたことから、薬剤投与や灌流時間など、灌流方法の改善が必要と考えられた。しかしながら本研究で得られた成果は、ポータブル心臓灌流装置によって、心停止ドナーからの心移植の際の心臓灌流や心機能測定を可能にすることで、ドナー不足の問題を解決し、今後の移植医療の発展に大きく貢献するものと考えられた。
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