研究実績の概要 |
<背景>本邦において心不全の患者は170万人とされ、難治性心不全に対する根本的治療法が必要だが心臓移植の機会は限られており、新規治療法の開発が重要だ。以前より幹細胞移植が注目され、動物実験で有効性が示されたが、自家細胞の準備に要す時間とコストが多大であることから、臨床では普及に至っていない。他家細胞移植を用いても限定的な解決しか得られず、普及は現実的でないとされる。 近年の幹細胞研究から興味深い知見が得られ、移植した幹細胞が生体内で分化することは稀である一方で、分泌された成長因子などが組織修復や機能回復の主因を成すことが判明した。移植細胞が放出するエクソソームは成長因子やmiRNAを含み、体外からの反復投与が可能である。精製されたエクソソームの投与は幹細胞移植に代わる、Cell-freeな新規治療法に成る可能性がある。 <目的>本研究では心筋幹細胞由来のエクソソームを解析し、低酸素プレコンディショニングにより機能が増強するか否か、これをマウスの陳旧性心筋梗塞モデルに投与して心筋保護効果を示すか否かを検証した。 <方法・結果>マウス心房より心筋幹細胞(cardiosphere-derived cells, CDCs)を単離、培養し、エクソソームを精製した。CDCsやエクソソームが含有する成長因子をタンパク、mRNAレベルで検討した。低酸素培養による成長因子の発現変化は限定的だったが、エクソソームのマーカーは大きく増加するものが確認された。マウスの陳旧性心筋梗塞モデルにエクソソーム含有シートを貼付し、8週間後に心機能を測定したところ、エクソソーム投与群はコントロール群と比較して高い心機能を示した。 <結論>低酸素プレコンディショニングはCDCsのエクソソーム放出を増加させる可能性が示された。またエクソソーム投与は慢性心不全に対する治療候補に成り得ることが示された。
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