緑内障は本邦における中途失明原因第1位の眼疾患である。現在唯一エビデンスのある治療法は眼圧下降治療であるが、日本人の緑内障患者の約7割は眼圧が 正常範囲内にある正常眼圧緑内障であり、超高齢社会を迎え失明患者は増加の一途を辿っていることから、眼圧下降以外の有効な治療法の開発が望まれている。緑内障の病態解明研究を個体レベルで遺伝子を対象に行うために、網膜神経節細胞でのみ遺伝子破壊をすることができる新たなゲノム編集システムを開発する必要があった。本研究では、先ず、網膜神経節細胞特異的に働くプロモーターを同定・縮小し、そのプロモーターでCas9をドライブした。更に、遺伝子破壊され た細胞を蛍光タンパク質で標識するために、小型の蛍光タンパク質をノックインするためのカセットの開発も行った。1つのAAVベクターに、1)Cas9を発現させ るユニット、2)ノックインのカセットのユニット、3)guideRNAを発現させるユニット、を搭載した(All-in-one vector)。本システムを搭載したAAVベクターを作製し(AAV2)、ウイルス溶液を硝子体注射により、マウス眼内へ注入した。5週間後にマウス網膜を摘出し、分子細胞生物学的解析を行った。その結果、カルニチンアセチルトランスフェラーゼ(CAT)が網膜神経節細胞死に関与していることを明らかにした。CATにより産生されるアセチルLカルニチンは緑内障患者の前房水中に多く存在していることが明らかとなっており、CATがヒトの緑内障の病態に関連していることが示唆される。
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