本研究は、脳梗塞の重要な原因である頚動脈狭窄症において、脆弱プラーク形成への小胞体ストレス応答関与機構の解明と、その解明により脆弱プラーク形成のサロゲートマーカーを探索することを目的としている。 頚動脈狭窄性患者の手術前後の画像、血液及び頚動脈プラークサンプル、対照とする未破裂脳動脈瘤患者の血液サンプルなどのデータ収集は、既に収集したデータを用いて解析を進行している。頚動脈狭窄性患者は、症候の様式によって、無症候群、症候群、進行性脳卒中群、の3群に群別して解析を行った。 収集した頚動脈プラークに対しては、小胞体ストレス関連抗体(CD34、CD146、NG2、CD68、GADD153、KDEL、GRP78、CHOP)を用いた免疫染色によって、小胞体ストレス応答の関与機構に関して解析を行った。GRP78陽性細胞数は、無症候群、症候群、進行性脳卒中群、の順で増加しており、小胞体の分子シャペロンであるGRP78の発現とプラーク不安定性との関連が示唆された。CHOP陽性細胞数は、無症候群、症候群、進行性脳卒中群、の順で増加しており、小胞体ストレスによるアポトーシスのマーカーであるCHOPとプラーク不安定性との関連が示唆された。本研究では、因果関係については結論を出せないが、小胞体ストレスの持続が頚動脈プラークの重症度や不安定性と関連していることを示した。 また、臨床成績からは、進行性脳卒中群の成績は他群よりも優位に不良であり、群内ではCEAはよりもCASの成績が有意に不良であった。この結果は、進行性脳卒中群の治療成績向上のためには、CEAによるプラーク除去が有効なことを示唆した。 これらの頚動脈プラークおよび臨床成績からの所見より、頚動脈で局所的に小胞体ストレスを制御する方法が存在すれば、頚動脈プラークの安定化を図ることが可能となると考えられる。
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