申請者らは「難聴」が患者に及ぼす影響を明らかにすることを目標に、霊長類モデルを用いた難聴研究のプラットフォーム構築に取り組んできた。近年、「認知症」との関連が指摘されている「難聴」を、多角的・経時的に解析するためには、高い社会性と音声コミュニケーションを有する霊長類モデルは強力なツールとなり得る。申請者らは、これまでに音響外傷性難聴コモンマーモセットの作製に成功しており、同モデルを活用することで、社会集団コミュニティに難聴個体が存在した際に各個体に表れるコミュニケーション障害やストレス反応をバイオマーカーとして明らかにすることが可能となる。 本研究では、難聴と認知症の発症をつなぐ“バイオマーカー”の存在を仮定し、健聴マーモセットと難聴マーモセットにおいて経時的に測定可能なバイオマーカー探索を行った。種々の解析を行ったが、現状ではストレス反応および自律神経系への影響を中心としたパラメーター設定が妥当であることを確認した。実際に難聴個体での測定を行い、いくつかのバイオマーカーにおいて、音響外傷性難聴発症の前後において有意な差が表出することを見出した。本年度はさらに、こうした難聴により生じるバイオマーカー変化をフェノタイプと見立てた際に、その原因となる脳機能・構造変化が生じていることを想定した画像的解析を追加した。近年、実臨床においても、認知症のバイオイメージマーカーとしてMRI、CT、SPECT、FDG-PETなどが汎用されている。本研究では行動学的解析とMRIを用いて難聴起因性認知症の病態解明を行うべく、研究プラットフォームの拡充を行った。
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