研究実績の概要 |
口腔扁平上皮がん(口腔がん)は、進行した病態で発見されることが多く、進展症例に対する分子標的薬もEGFR阻害剤があるだけで、新たな薬の開発が望まれている。RNA編集酵素ADAR1はRNAに変異を挿入する酵素であり、発現量に依存して、タンパク質変異体を作り出す。申請者は、頭頸部がんでADAR1が高発現し、RNA編集頻度が高いと生存率は低下するという報告から、口腔がんとADAR1の関係性に着目した。 本研究では、口腔がん組織におけるADAR1タンパク質の発現を調べる。次に、口腔がん細胞におけるADAR1の基質RNAを分離し、腫瘍悪性化に関わるRNAを、In vitro アッセイにより同定する。同定した野生型、及びRNA編集型タンパク質の口腔がん組織における発現を調べることで、口腔がん悪性化にRNA編集酵素ADAR1が関与するという仮説を立証する。口腔は他の臓器と比べ、熱、アルコール、炎症といったストレスに頻繁に晒される。ADAR1は炎症刺激により発現が誘導されることから、「口腔がんではRNA編集が増加し、腫瘍の悪性化を引き起こす」と考えた。本研究の学位術的背景としてADAR1は頭頸部がんにおいて高発現し(Han Lら, Cancer Cell, 2015)、RNA編集頻度が高いと生存率は低下する(Paz-Yaacov Nら, Cell Rep, 2015)。またRNA編集は、頭頸部がんのうちHPV陰性のグループで高くなっている。これらの報告は、口腔扁平上皮がん(口腔がん)におけるADAR1の重要性を示唆しているが、口腔がんにおけるADAR1の腫瘍生物学的意義はいまだ不明である。そこで本研究では、1)口腔がん組織におけるADAR1の免疫染色、2)ADAR1欠損細胞株の樹立、3)口腔がん細胞株におけるADAR1基質RNAの同定、4)In vitro アッセイを用いた悪性化関連RNA編集の同定、5)口腔がん組織における野生型、及びRNA編集型タンパク質の発現を解析する。
|