研究課題
歯胚の発生過程においては、複数の遺伝子が発生段階に応じて制御されることで適切な歯冠・歯根形態が形成される。今までに歯の形態形成に関わる遺伝子は複数報告されているが、歯に特異的なbasic-helix-loop-helix(bHLH)転写因子は未だ報告がない。我々の研究グループでは、歯の遺伝子発現ライブラリより新規bHLH因子を同定し、AmeloDと命名した(Accession number:MG575629)。本研究では、AmeloDの歯の発生における機能解析を行い、歯の形態形成に関わる新規分子機序を解明することを目的としている。平成30年度はAmeloDの歯胚発生における機能解析を行い、AmeloDが歯胚の大きさを制御する機構の一端を明らかとし、論文発表を2件行った。以下に詳細を示す。AmeloD欠損マウスを作成し、歯の表現型解析を行った結果、歯冠・歯根長が野生型マウスに比較し有意に小さく、エナメル質及び象牙質体積が2割程度減少することが明らかとなった。歯原性上皮細胞株CLDE細胞を使用し、AmeloDの分子機能を解析した結果、AmeloDは細胞間結合分子Eカドヘリンの発現を抑制し、細胞遊走能を亢進することがわかった。加えて、AmeloDはEカドヘリンのプロモーター領域に結合することでEカドヘリンの転写活性を制御していることが明らかとなった。以上の結果より、AmeloDは内エナメル上皮において、Eカドヘリンの発現調整を介して細胞遊走能を促進する、歯胚の形態形成に重要な因子であることがわかった。これらの知見は、歯の発生に関わる新規の分子機序として歯の発生機構解明に大きく貢献するのみならず、AmeloDが内エナメル上皮特異的マーカー遺伝子として有用である可能性、また歯の再生医療への応用という観点からはAmeloDが歯胚形態制御因子として有用である可能性が示された。
1: 当初の計画以上に進展している
平成30年度では、1.AmeloD欠損マウスの表現型解析、2. 歯原性上皮細胞を用いたAmeloDの分子機序解析、3. AmeloDとエピプロフィン(Epfn/Sp6)二重欠損マウスの表現型解析、4.AmeloDとEpfnの関係性の解明を目標に研究を推進してきたが、当初予定していた実験計画について、ほぼ全て達成することができた。以下に各内容について示す。1.AmeloD欠損マウスの表現型解析については、表現型が軽微であることから解析方法の確立に時間がかかったが、米国国立衛生研究所内の共同研究者の協力もあり達成することができた。2. 歯原性上皮細胞を用いたAmeloDの分子機序解析については、in vivoの表現型ならびに前任者の研究結果と一致する実験結果が得られ、予定以上に進展した。3. AmeloDとエピプロフィン(Epfn/Sp6)二重欠損マウスの表現型解析に関しては、Epfn欠損マウスの生存率が約50%程度であり、成体マウスのサンプル数を集めることが容易ではなかったが、AmeloD欠損マウス同様にEカドヘリンの発現調整を介した歯胚形態の変化が認められたため、分子機能解析はスムーズに進行した。4.AmeloDとEpfnの関係性の解明については、in vivoで関係性を示唆するデータが得られたものの、その実証実験までは至らず、現在進行中である。平成30年度は留学先の米国国立衛生研究所から帰国し、現在の東北大学歯学研究科小児発達歯科学分野研究室での研究を再開した。留学先のYoshi Yamada lab.は平成30年をもって閉鎖されたため、マウスや抗体を含む試料の輸送はスムーズには行かなかったが、帰国前に準備した試料で平成30年度の研究をまとめることができた。今後試料の輸送と研究の継続を行う予定である。
平成30年度では、AmeloDはEカドヘリン発現調整を介し、歯胚の形態制御を行うことが明らかとなった。平成31年度はこれらの知見を応用し、AmeloDを利用した人工歯胚の形態制御法の開発、ならびにAmeloDの他の分子機能の探索を行う。1.AmeloDを利用した人工歯胚の形態制御法の開発AmeloDは発生過程の歯胚において、細胞遊走能を促進し歯胚の大きさを大きくすることから、再生医療を目指した人工歯胚の成長促進因子としての応用が期待される。研究計画として、歯胚の器官培養法を用いてAmeloDの過剰発現ならびに発現抑制による歯胚の大きさ及び形態に与える影響を検討する。当研究者は既に歯胚の器官培養法を確立しており(IJOS 2016)、また、過剰発現に用いる発現ベクター、発現抑制に用いるsiRNAは平成30年度に既に機能することを確認している(JDR 2019, JBC 2019)ため、実行可能性は十分である。2.AmeloDの他の分子機能の探索これまでに明らかとなった歯の発生におけるAmeloDの機能に加え、転写因子として他の標的分子群を介した機能があると考えられる。そこで、AmeloDの標的分子群の同定のため、ChIPシーケンスを行い、AmeloDの機能全体を解析することを目指す。実験計画としては歯原性上皮細胞株CLDEを用い、AmeloD過剰発現によるDNA結合領域を同定する。その後、可能であればプロモーター領域にピークが見られた遺伝子について、AmeloDによる遺伝子発現変化を評価する。本実験で用いる抗体については、平成30年度に免疫沈降ならびにChIPアッセイにおいて既に機能することを確認している(JDR 2019)ため、ChIPシーケンスにおいても機能する可能性が高い。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件) 図書 (1件)
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