研究課題/領域番号 |
18H06288
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
城戸 大輔 東京医科歯科大学, 歯学部附属病院, 医員 (40822549)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 歯周病 / 糖尿病 / 創傷治癒 |
研究実績の概要 |
本研究の学術的な背景は、かねてより指摘されている歯周病と糖尿病の相互関係性である。細菌感染症である歯周病と、慢性の代謝疾患である糖尿病の相互関係性については、過去から現代に至るまでに多くの研究がなされている。近年では、好中球の機能不全、コラーゲン合成阻害、微小循環障害、線維芽細胞機能不全、最終糖化産物(AGEs)の組織破壊への関与、酸化ストレスによる影響などが注目されているが、未だ詳細は不明である。そこで本研究の核心となる学術的な問いは、高血糖に長期間曝された歯周組織は、酸化ストレスによって傷害されるのか、という点および引き起こされた傷害は可逆性であるか、という点である。本研究の目的は、歯周病と糖尿病の相互関連性について、糖尿病によって引き起こされる酸化ストレスという観点から明らかにすることである。本研究では、糖尿病モデルラットに抗酸化剤を投与することで酸化ストレスを抑制することで、糖尿病による傷害の発現を抑制することによって酸化ストレスが歯周組織の創傷治癒に与える影響について検討した。糖尿病モデルラットから単離した歯肉線維芽細胞を、培養液中のグルコース濃度を通常通りとしたもの、および高血糖状態を再現したものを使用したin vitro実験において、抗酸化剤であるN-アセチル-L-システイン(NAC)を高血糖状態を再現した培養液に添加することで歯肉線維芽細胞における酸化ストレスが改善し、またそれによってインスリン抵抗性が改善し、さらには細胞増殖能、および細胞遊走能が改善することが示された。糖尿病モデルラットでのin vivo実験においては、投与する抗酸化剤の種類や期間によって創傷治癒の改善がどのように変化するのか、また抗酸化剤の種類による効果発現の違いについては今後さらに検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、糖尿病による高血糖によってもたらされる酸化ストレスの発生と、それに伴うインスリン抵抗性の発現、歯肉線維芽細胞の機能不全が発生する機序、創傷治癒の遅延が引き起こされる機序について検討するものである。現段階までに行ってきた研究により、高血糖によって酸化ストレスが発現する点、酸化ストレスによってインスリン抵抗性が発現する点、酸化ストレスが抗酸化剤の投与によって減少する点について示した。このことから、研究課題の進捗としては順調と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現段階までに行ってきた研究により、糖尿病モデルラットの歯周組織において創傷治癒が遅延することが示されている。また、創傷治癒が遅延する理由として持続する高血糖状態によって発現する酸化ストレスが影響している可能性が示されてきている。今後は、糖尿病モデルラットにおいて同様の検証をin vivo実験で行う予定である。歯周病の最終的な目標は、失われた歯周組織、あるいは損傷を受けた歯周組織の再生であることから、歯周治療後の治癒過程における組織の修復や再生について、そのメカニズムを解明することが臨床的に重要であるといえる。歯肉や歯根膜などの歯周組織は、比較的血管が豊富に存在する組織であり、肥満などの前糖尿病段階や、糖尿病を発症した状態において細胞にインスリン抵抗性が発現していれば、組織修復や再生において中心的な役割をなす機能に影響がでることは十分考えられる。また、分子生物学的なメカニズムの探索のためには、糖尿病モデルラットによるin vivo実験のみならず、in vitro実験も実施する。培養歯肉線維芽細胞を高血糖状態および通常血糖状態を再現した培養液中で培養し、そこに抗酸化剤を添加することで、細胞増殖能や細胞遊走能、インスリン抵抗性がどのように変化するのかを評価を行う。これらの実験によって、歯肉線維芽細胞におけるインスリン抵抗性が、高血糖状態によって引き起こされる酸化ストレスから受ける影響について検討し、糖尿病モデルラットにおける歯周組織の創傷治癒の遅延のメカニズムを解明する。
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