本研究では、口腔扁平上皮癌(OSCC)幹細胞を標的とした治療の実現に向け、iPS 細胞作製に用いるリプログラミング技術によってOSCC 細胞の分化段階を巻き戻し、人工的に癌幹細胞様の細胞 (人工癌幹細胞) の作出を試みた。3種類のOSCC細胞株であるCa-9-22 (歯肉癌) 株・HSC-3-M3 (舌癌)株・KON (口底癌) 株に対してリプログラミングを行った結果、CD133、ALDH1等の癌幹細胞マーカー分子や、Nanog、Oct3/4等のの未分化マーカー分子の一時的な遺伝子発現上昇を認める細胞の作製に成功した。しかし単なるリプログラミングでは、その性質を長期間維持するのは困難で、多能性幹細胞様のコロニーの形成も認められなかった。一方で、リプログラミング直後にCD90/Thy-1およびCD24の一過性発現上昇がみられることが明らかとなり、OSCC幹細胞における特性分子の候補として検討中である。 以上の結果を踏まえ、リプログラミングOSCC細胞の未分化維持法の確立が必要と考え、MACS(磁器細胞分離法)を用いたセレクション法を検討したところ、継代時にTra-1-60陽性細胞をセレクションすることで、コロニー状構造を形成する細胞集団を維持できることが明らかとなった。このTra-1-60陽性細胞群は、2週間に1回程度の継代を行うことで維持が可能な、非常に増殖能の低い細胞集団であり、Tra-1-60陰性細胞群と比較して未分化・癌幹細胞マーカーともに高い遺伝子発現レベルを示した。リプログラミングOSCC細胞の未分化維持法の開発に時間を要したため、人工口腔癌細胞の特性分子の詳細な解析は途上であるが、引き続きリプログラミングOSCC細胞の遺伝子発現パターンや細胞膜電位等の解析、腫瘍形成能の評価に加え、癌オルガノイドの作成による腫瘍形成過程のin vitroでの評価に繋げる予定である。
|