我々は以前、ゼノフリー無血清培養下において歯髄組織からの幹細胞の分離と大量培養に成功した。一方で、無血清培養における歯髄幹細胞(DPSCs)は、過度な培養によって多層化して細胞死が生じ、さらに多層化したDPSCsは、継代後にアポトーシスを含む細胞塊を形成し増殖を示さなかった。 本研究は、無血清培養による効率的な臨床的培養法の確立をゴールとし、過度な培養による多層化と細胞死の原因を明らかにするため、DPSCsが呈する特異的な接着形態に着目し、その細胞接着機構の解明を目的としている。 無血清培養下におけるDPSCsの「隣接細胞との接着機構」や「細胞外マトリックス(ECM)との接着機構」を解明するために、“ストレスファイバー”や“Focal adhesion”に着目し、それらの関連遺伝子やタンパクの発現を解析した。結果、血清の有無による培養条件の違いにより、細胞の接着動態が異なることが明らかとなった。さらに、無血清培養下におけるDPSCsの多層化は、細胞のECM分泌が関与している可能性が示唆された。 また「培養基材との接着機構」を解明するために、異なる条件で処理された培養基材を用い、DPSCsの2次元的な接着形態の観察や増殖能を評価した。結果、無血清培養下では「正電荷」に処理された培養基材では、細胞の接着はわずかで増殖を示さなかった。加えて、代表的なECMの一種であるtype 1 collagenの培養基材コーティングは、無血清培養下のDPSCsの早期接着を促し、多層化に伴う細胞死を示すことなく細胞増殖を促進させた。 DPSCsの無血清培養においてtype 1 collagen コーティングは、細胞の接着や増殖に有利にはたらき、さらに多層化に伴う細胞死を回避することが示唆された。 以上の知見は、無血清培養における効果的なDPSCs培養に貢献できることが期待される。
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