研究課題
顎顔面ほど複雑な構造と機能を有する部位は他にない。そのため、発生期における形成過程も複雑を極める。しかし、先天性疾患の3分の1に顎顔面に異常が認められることは、その顎顔面の発生メカニズムが内外の変化によって簡単に破綻するほど脆弱であることも意味する。そのような極めて厳格な制御が求められる形成過程を、セントラドグマ(DNA→RNA→タンパク質)というシンプルな機構のみで、制御しているとは考えにくい。タンパクをコードしないmicroRNAは、ターゲットのメッセンジャーRNAと結合することによりタンパクへの翻訳を阻害し、タンパク量を調節する分子群である。microRNAの欠損は、顎顔面のほとんどを欠損させることが報告されており、microRNAが顎顔面形成のメインプレーヤーの一つである事を示している。しかし、顎顔面がほとんど形成されないという表現形は、重篤すぎて機能解析には適さない。顎顔面の発生は、半日単位での継時的な変化を大きな特徴とするため、重篤すぎる表現形への対応は、任意の時期で遺伝子を欠損させるような時間軸を考慮した研究デザインにより回避できる。そこで本研究では、組織特異的欠損Cre-LoxPシステムにERを導入することにより、microRNAを好きな時期に欠損させることで、顎顔面発生メカニズムにおけるmicroRNAの機能の把握を目指す。ERの導入されたDicer欠損マウスの作成に着手した。
3: やや遅れている
本研究に必要なDicerfl/flマウスやER-Creとのコンパウンドマウスが、母親マウスの飼育放棄や食殺行為のため、予定していた数に達するまで、予定していたよりも多くの時間を要し、実験の進捗に大きく影響した。繁殖の規模を増やすことにより、十分な数のマウスをすでに確保しており、今後は予定通りの研究遂行が可能と思われる。
次年度は、様々な時期においてDicerを欠損させた際における表現型の相違を、詳細に把握する。さらに、表現型の認められたDicer欠損マウスでは、分子変動をマイクロアレイ、in situ hybridization, 免疫染色、などで検索する。特に、器官発生に重要な役割を担うことが知られているShh, Fgf, Wnt, Tgfなどのシグナル経路の活性の検索には注意を払う。