近年、多くの慢性疾患に対する疾患関連遺伝子が明らかとなっているが、日本人を対象とした根尖性歯周炎についての報告は未だにない。先行研究において、骨のリモデリングにきわめて重要な働きをする Wnt シグナル伝達経路に着目した。根尖病変を認める患者と根尖病変を認めない患者の一塩基多型 (SNP) について探索したところ、 Wnt シグナル伝達経路の共益受容体であるLRP5のSNPに関連性を見出した。そこで、本研究では、Wnt シグナル伝達経路を活性化するリチウムクロライド(LiCl)を根管貼薬剤として根尖性歯周炎モデル動物を用いて解析したところ、根尖病変の治癒が促進しており、Runx2、 Col1a1 の発現が増加していた。また、LiCl 貼薬群では CD45R 陽性細胞の数も増加し、免疫の賦活化も生じていることが明らかとなった。 そして、将来的なヒトへの応用を見据え、LiClから同じリチウム塩で、双極性障害の治療薬としてすでに利用されている炭酸リチウムを根管貼薬剤として用い、根尖性歯周炎に対してどのような影響をもたらすかを解析したところ、根尖病変の縮小が認められた。 現状では、水酸化カルシウム製剤に代表される、殺菌効果を主とした根管貼薬剤が広く用いられている。これに対して、研究代表者は、従来の根管の殺菌消毒に続いて、骨の形成促進および免疫を誘導することにより根尖病変の治癒を促すという、新しい発想の根管貼薬剤の開発につなげていきたい。
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