運動習慣の健康増進の機序のひとつとして、運動で生じる酸化ストレスが、長寿遺伝子の発現を促進し、筋肉組織のミトコンドリア機能を上昇させ、抗酸化酵素の発現を上昇させることが報告されている(ミトホルミシス)。この筋組織でのミトホルミシス現象は運動効果の有用な指標となりうるが、筋生検を行う必要がある。健常者が日々の生活の中で行う検査としては現実的ではないため、採血検体でこのミトホルミシス現象を評価することが可能かどうかを検証した。 高知大学で施行した運動介入研究の解析結果から、 末梢血単核球の抗酸化酵素群のmRNAのうち、グルタチオンペルオキシダーゼ1、スーパーオキシドディスムターゼ1および2が、運動介入によって有意に上昇していることが判明した。次に2020年1-3月に某健診機関の人間ドッグを受診した基礎疾患や投薬のない同意の得られた健常者392例の血液検体の横断研究の解析結果から、スーパーオキシドディスムターゼ2のmRNAが、非喫煙者の運動習慣をあらわす独立予測因子であることが見出された。興味深いことにスーパーオキシドディスムターゼ2の上昇は、脂質過酸化マーカーであるマロンジアルデヒドと負の相関を有し、相対的なミトコンドリアDNA量と正の相関を示した。この結果は、血球が筋肉と同様に、運動によるミトホルミシス現象を起こしている可能性を示唆する。この知見を、第20回 KMS Research Meettingおよび第91回日本衛生学会学術総会(富山)で発表した。また同内容は国際誌Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition (IF 2.3程度)にアクセプトされた。
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