研究課題
芳香族アミンによる職業性膀胱発がんはよく知られているが、その詳細な発生メカニズムについてはまだ十分に明らかとなっていない。近年、既知の膀胱発がん物質であるo-toluidine (OTD) を使用してacetoaceto-o-toluidide (AAOT) を製造する日本の化学工場の複数の従業員が膀胱がんを発症した。OTDと類似構造を持つ芳香族アミンであるAAOTの膀胱発がん性についてはほとんど知られていない。今回、我々はAAOTの膀胱発がん性、及びそのメカニズムを評価することを目的とした。膀胱発がん物質であるBBNを6週齢の雄、雌のF344ラットに4週間飲水投与した後、AAOTを0、0.167、0.5、1.5%の濃度で31週間混餌投与する2段階発がん試験を行った。また、AAOTを6週齢の雄のF344ラットに0、0.167、1.5%の濃度で4週間単独で混餌投与し、膀胱上皮からRNAを抽出してマイクロアレイを使用した遺伝子発現解析を行った。2段階発がん試験では、用量依存性に雄、雌の0.5、1.5%AAOT投与群で膀胱がんの発生率、発生数が有意に増加した。AAOT投与されたラットの尿中からはAAOT、OTD、及びOTDの代謝物が用量依存性に検出され、OTDはAAOTより著明に高濃度であった。マイクロアレイを使用した遺伝子発現解析では、雄の1.5%AAOT投与群においてJUNとその下流にある標的遺伝子の発現が亢進していた。AAOTが他の芳香族アミンと同様に膀胱発がん物質であることが初めて明らかとなった。AAOTの膀胱発がん性にはJUNとその下流標的遺伝子の発現亢進が関与しており、AAOTから代謝されるOTDがAAOTの最終的な膀胱発がん物質であると考えられる。これらの知見は、社会的意義が高く、芳香族アミンによる膀胱発がんの知見を深めることに貢献したと考える。
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