研究課題/領域番号 |
18H06356
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪国際大学短期大学部 |
研究代表者 |
黒川 麻里 大阪国際大学短期大学部, その他部局等, 講師 (90826059)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 育児の自己効力感 / 育児支援 / 低出生体重児 / 母親 / NICU |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、①母親の育児に対する自信を評価する尺度(日本語版Perceived Maternal Parenting Self-Efficacy (JPMP S-E) 尺度)の開発と検証、②開発した尺度を用いてわが国における育児の実態を明らかにすることである。 本研究で開発目的のJPMP S-E尺度は、NICUに入院する低出生体重児の母親の育児に対する自信が測定できる尺度である。欧米では、産後うつや母児の心身の健康に関する様々なアウトカムとの関連が指摘されている。日本語版PMP S-E尺度による定量的評価は、母親に必要な支援を明らかにし、個別的支援の提供へとつなげることができる。 本研究は、次の4段階の過程で進める。第1段階は、JPMP S-E尺度を作成する。第2段階は、JPMP S-E尺度の内容妥当性および表面妥当性の検討を行う。第3段階は、JPMP S-E尺度を用いた調査を実施する。第4段階は、JPMP S-E尺度の臨床的応用を検証し、実態解明から育児支援システムを検討する。 研究計画の第1段階はすでに終えていることから、平成30年度は研究計画の第2段階から始めた。第2段階において、母児の看護に関わる6名の専門家によりJPMP S-E尺度の内容妥当性と、低出生体重児を育てる母親14名によって尺度の表面妥当性の確認ができた。第3段階として、地域母子周産期医療センター2施設ののNICUに入院している低出生体重児の母親と、2施設中1施設の産科病棟で正出生体重児を出産した母親を対象に、JPMP S-E尺度を用いた調査を行った。 今後は、JPMP S-E尺度の信頼性と妥当性の検討を行うとともに、研究計画の第4段階である低出生体重児の母親の育児に対する自信の実態とPMP S-E尺度の臨床での応用について検討を行う。さらに、研究の成果を学会や論文をとおして報告する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、日本語版PMP S-E(JPMP S-E)尺度を開発し、臨床での応用の可能性を検証する。尺度の完成までの過程は次の4段階である。 【第1段階】JPMP S-E尺度を作成する。【第2段階】JPMP S-E尺度の内容妥当性、表面妥当性を検討する。【第3段階】JPMP S-E尺度を用いた調査を実施する。【第4段階】JPMP S-E尺度の臨床的応用を検証し、実態解明から育児支援システムの検討につなげる。 第1段階は終えているため、平成30年度は第2段階から始めた。第2段階では、JPMP S-E尺度の内容妥当性と表面妥当性を検討した。母性および小児看護の専門家6名により尺度の内容妥当を検討し、JPMP S-E尺度は育児の自己効力感が測定できる尺度であることを確認した。表面妥当性の検討では、低出生体重児を育てる母親14名によって、質問内容と質問の日本語の表現が理解でき、回答できることが確認できた。第3段階では、地域周産期母子医療センター2施設のNICUに入院中の低出生体重児の母親と、2施設中1施設の産科病棟で出産後の母親を対象にJPMP S-E尺度を用いた調査を行った。 現在は、低出生体重児の母親81名と産科病棟に入院中の母親57名から調査票を回収し、データの分析を始めている。PMP S-E尺度は、本研究と同様にイタリア語やポルトガル語(ブラジル)で開発されている。現在までの分析結果からは、日本人の母親の育児の自己効力感は、すでにPMP S-E尺度を用いて調査している諸外国の母親よりも低い傾向にあることがわかった。現段階の分析では、文化的な背景が尺度の信頼性・妥当性を検討するうえで大きな影響要因になることが示唆された。JPMP S-E尺度が日本の臨床で応用できる尺度であることを明らかにするためには、今後、その他の影響要因を含めて信頼性・妥当性を慎重に検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、研究計画のとおり以下の過程で進める。 【第3段階】JPMP S-E尺度を用いた調査を継続し、データの分析を行う。JPMP S-E尺度の信頼性と妥当性の検討に必要なデータの収集を継続的に行い、信頼性と妥当性の分析を行う。信頼性としては、PMP S-E尺度を用いて2度の異なる時期に実施した調査から尺度の再現性を確かめる。妥当性としては、育児の自己効力感と一般の自己効力感との違い、および育児の自己効力感と愛着との違いを確かめる。これらの分析により、JPMP S-E尺度が低出生体重児の母親の育児における自己効力感を適切に測定する信頼できる尺度であること、および既存の尺度との違いからJPMP S-E尺度の開発意義を証明する。 【第4段階】JPMP S-E尺度の臨床的応用を検証し、実態解明から育児支援システムの検討につなげる。第3段階でJPMP S-E尺度の信頼性と妥当性を明らかにした後で、臨床での応用について検討を行う。例えば、退院前の母親の育児における自信の程度や時期的な変化、医療従事者からの支援との関連について実態を明らかにする。その評価から、NICU入院から自宅に移行する母児に必要な支援を時期的に捉え、低出生体重児の母親への育児支援システムの構築を目指した次回の研究課題へとつなげる。 本研究の成果は、国際学術雑誌midwiferyに投稿し、研究の成果を報告する。さらに2019年11月に開催される第29回日本新生児看護学会学術集会と、2020年6月にインドネシアで開催されるThe International Confederation of Midwives (ICM)での研究成果の報告も計画している。PMP S-E toolを用いた評価は国際的な比較も可能であるため、低出生体重児の母親への支援に携わる多くの者で活用し、研究成果の共有にも役立てたいと考えている。
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