日本において、弱毒生ワクチン導入後に流行しているA群ロタウイルス(RVA)が、ワクチン選択圧からの逃避能を有している可能性が示唆されていた。そこで本研究では、RVAワクチン導入後の検体を用い、RVA流行株の塩基配列情報を収集し、これらの情報をもとに、近縁系統樹解析、計算科学的手法を用いた多様性解析を行い、RVA感染症の流行の実態についての解析を試みた。 2016年以前において、G2P[4]型のRVAがワクチンの接種歴に関係なく広く検出された。一方で、2017年以降はG3P[8]-DS1型のRVAが主に検出された。つまり、患者から検出されるRVAの遺伝子型は、患者のワクチン接種歴よりも、その年の流行に左右されることが示唆された。また、系統樹において、本研究で検出されたRVAは、G2P[4]型、G3P[8]-DS1型それぞれでクラスターを形成した。この結果から、大阪でのRVAの流行は、単一のRVAが主な原因となっていることが明らかとなった。系統樹上では、G2P[4]型およびG3P[8]-DS1型のRVAはそれぞれクラスターを形成する単一のRVAであるが、多様性解析により、両RVAにはアミノ酸配列の多様性が存在することが明らかとなった。多様性の高いアミノ酸の座位は、RVAのウイルス粒子の外殻(VP7)の中和エピトープだけでなく、その他のウイルスタンパク質の機能的なドメインにも確認された。そのため、流行株のRVAには、抗原性に加え、細胞内での増殖性や病原性にも多様性が生じている可能性がある。 以上より、本研究では、大阪府におけるRVAの流行の実態の一部を明らかにすることができた。ワクチンの選択圧により、今後、現在の流行株とは異なる遺伝子型のRVAによる流行や、アミノ酸配列の多様化により、様々な病原性のRVAが流行する可能性が示された。
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