研究課題/領域番号 |
18H06393
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
村瀬 壮彦 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 助教 (40823315)
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研究期間 (年度) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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キーワード | 受傷時期推定 / Chitinase like-1 / 免疫組織化学 / 損傷皮膚 / ヒト |
研究実績の概要 |
昨今、児童・老人虐待や家庭内暴力の発生件数は増加傾向にあり、これらが疑われる法医剖検数も増加している。このような事例では、被害者はある程度の期間に渡って暴力を受けることが多く、剖検の際には新旧混在する損傷を科学的に証明する必要がある。しかし、成傷からの時間を客観的かつ科学的に診断する明解な検査法は未だ確立されておらず、その確立は法医病理学分野における急務である。 これまでのマウスを用いた研究において、Chitinase-like 1 (Chil1) とChitinase-like 3 (Chil3) というタンパク質が受傷から1日から3日程度経過した損傷皮膚において増加することを明らかにし、ヒトの損傷皮膚においても両タンパク質の発現が時間的特異性をもって発現する可能性が考えられた。本研究ではヒト損傷皮膚において両タンパク質の発現動態を指標とした受傷時期診断法の確立を目的とする。 当機関において、2015年及び2016年に施行された剖検時に採取した損傷皮膚サンプルをランダムに抽出し、免疫組織化学法を用いてChil1を染色した。これらのサンプルのうち、状況や捜査情報から受傷時期が明らかでないものについては既存の方法を用いて受傷時期推定を行った。受傷部に認められる好中球等の炎症細胞におけるChil1の陽性率は、受傷後0-2日程度まではほぼ0%であったが、3-5日頃で5%程度まで上昇したのち、5日以降では減少した。これらの変化は統計的に有意であった。この結果から、Chil1は受傷後3-5日の損傷で特異的に増加することが強く示唆され、Chil1の検出による受傷時期推定法が確立できる可能性が示された。 現時点では124サンプルの検討を終了しており、今後は2012年-2014年に採取された損傷皮膚サンプルについても研究を進め、最終的に計200サンプル程度での検討を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の活動期間において、2012年-2016年に当機関での剖検時に採取されたヒトの損傷皮膚サンプルを用いて検討を行うことを目標としている。前年度の研究遂行中において幾つかの問題(1. 過去サンプルにおける受傷時期推定、2. Chitinase like-1及びChitinase like-3に対する免疫組織化学の条件検討、3. 画像解析プログラムの最適化)が生じたものの、速やかな解決が可能であったため、前年度では2015年及び2016年に採取された組織の検討を終えている。本年度は2012年-2014年分の検討を行い、研究結果の信頼性を更に高める予定であり、当初の目標は十分達成可能と考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究活動により、Chitinase-like 1 (Chil1) はヒト損傷皮膚において、受傷後3日から5日の時期において特異的に発現が増加することを強く示唆する結果が得られている。現時点では2015年及び2016年に採取された組織の計124サンプルの検討が終了している。今後の研究活動において、2012年-2014年に採取されたサンプルを対象に研究を行う予定であり、現在までの結果を含め、計200サンプル程度のヒト損傷皮膚におけるChil1の発現動態を検討する。 研究遂行の方法はこれまでと同様、まず損傷皮膚サンプルを用いて、Chil1に対する免疫組織化学法によって染色を行う。次に組織像を画像データとして保存し、ランダムに10視野を選択し、画像解析プログラムによって陽性率を算出する。それぞれの損傷皮膚から得られた陽性率と受傷時期について統計学的に解析を行う。最終的にChil1の受傷時期推定における有用性について、研究論文として報告を行う予定である。 なお、Chitinase like-3についてもヒト損傷皮膚サンプルを用いて免疫組織化学法による染色を試行した。複数のサプライヤーから提供されている抗体を使用し、各種抗原賦活化法についても十分検討を行ったものの、ヒトでの染色性を確認することは出来なかった。そのため、今後はChil1についてのみ検討する予定である。
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