日本では1970年代から急速に晩婚化・晩産化が進み、全国で推計25万人(内閣府調査)が子育てと親の介護を同時に行う「ダブルケア」を担っている。女性が社会で働くことが旧来より強く望まれている一方、社会には、子育てや介護等の家庭の仕事を女性が担当すべきだという性別役割分業規範が根強く残っており、女性の負担が増し、健康状態が悪化している可能性が示されている。先行研究では、子育てあるいは介護をする者の心身の健康が損なわれていることが示されているが、子育てと介護が同時に存在する現代の家庭内役割と健康との関連についての研究は行われていない。そこで本研究では、日本人の代表サンプルである国民生活基礎調査および次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)等の大規模コホート研究のデータを用いて、子育てや介護をはじめとした家庭内役割と健康との関連を明らかにすることを目的とした。 最終年度である2019年度は、これまでに整備した国民生活基礎調査の調査票情報データセットを用いて、家庭内ケアの種類(ケアなし、育児のみ、介護のみ、ダブルケア)と様々な健康指標との関連についての解析を進めた。その結果、介護のみを行う女性およびダブルケアを行う女性は、ケアを行っていない女性に比べて主観的不健康感、心理的苦痛、短時間睡眠、健診未受診の割合が高いことが明らかになった。これらの結果は、国内外の学会で発表し、論文を投稿中である。また、JPHC-NEXTについては、社会的役割数と主観的健康感の関連について解析を完了し、論文化を進めている。 本研究により、家庭内役割の種類や数が、健康ならびに健康行動と関連していることが明らかになった。高齢化が進み、家庭内の介護負担が増える中、介護者の健康を守る公衆衛生学的施策が重要であることが示唆された。
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