本研究は、次世代シークエンサーを用いた網羅的なヒト常在ウイルス叢解析による個人識別法の開発を目的とするものである。常在ウイルス叢のメタゲノム解析による個人識別の試みは初めてであり、現在のDNA型鑑定に十分な質・量のヒトDNAが得られない資料の個人識別に役立つ可能性がある。本年度は、4名の健常被験者の体の部位4ヶ所(掌、上腕内側、頬、耳介後背部)より、3回(1回目の採取から、1週間後および1ヶ月後)にわたり採取した計48検体の皮膚スワブについて、前年度に検討したワークフローに基づき、次世代シークエンサー解析を実施した。得られたリードは、Taxonomer(Flygare et al. 2016)にて分類した。その結果、各サンプルから平均22属、合計78科247属のウイルスが検出された。特にPapilomaviridae、Herpesviridae等のヒト皮膚組織に感染しうるウイルス科由来のリードは、全検体から多様な属のバリエーションで検出された。また、一本鎖DNAウイルスである、Anelloviridae、Parvoviridaeも90%以上のサンプルから検出された。これまで、ヒト皮膚常在ウイルス叢の研究は二本鎖DNAウイルスを対象としたものに限られていたが、本研究の成果として、DNA/RNAウイルスを包括したヒト常在ウイルス叢が明らかになった。次に、個人識別のための試みとして、検出されたウイルス属とそのリード数から階層的クラスタリング解析および主成分分析を実施したところ、検出されたウイルスの分類およびリード数と個人の間に相関はなく、個人識別を達成することは困難であった。そのため現在は、因子分析法により、個人差が強く現れると示唆されたウイルス属を抽出し、解析を進めている。さらに、全てのサンプルから安定して検出されているウイルス科に着目し、系統解析による個人識別を試みる。
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