研究課題
本研究の最終的な目標は,雌性のほうが雄性よりも運動後の筋損傷(長時間にわたる筋収縮力の低下と定義される)が生じにくい理由を明らかにすることであった.そのために,1) 伸張性収縮(筋損傷を引き起こす典型的な収縮様式)を行った後の筋収縮力の回復の程度に性差は存在するのか,2) 性差があるとすればその原因は筋細胞内のどのような機能に違いがあるためなのか,3) 性ホルモンであるエストロゲンがそのような違いを引き起こす根本的な原因であるのかの3つの疑問に答えることを目的とした.これらの点を明らかにするため,伸張性収縮後の骨格筋の変化を雌雄で比較するとともに(実験1),エストロゲン欠如マウス[卵巣摘出(OVX)により作製]とエストロゲン投与マウス(OVX後にエストロゲンを毎日投与)とコントロール群で伸張性収縮後の変化を比較した(実験2).実験1の結果,1) 伸張性収縮負荷3日後において,雌と比較し雄では筋収縮力が著しく低下すること,2) この原因の一つは筋小胞体と横行小管をつなぐタンパク質(ジャンクトフィリン)が分解されることにあること,3) 雌ではミトコンドリアのCa2+取り込み機能の亢進が生じジャンクトフィリンの分解を抑制していることが明らかとなった.実験2の結果から,1)エストロゲンが欠如すると,雌であっても伸張性収縮負荷3日後において筋収縮力が低下すること,2) エストロゲンはミトコンドリアのCa2+取り込み機能を亢進するために必要であることが明らかとなった.これらの結果は,雌性ではエストロゲンが供給されることで,細胞内環境に応じてミトコンドリアの適応が生じやすいため,運動後の筋損傷が引き起こされにくいことを示唆する.
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