脳卒中によって重力や身体軸の方向(傾き)の正確な認識が困難となることや、これらの方向認知障害が姿勢障害の一要因である可能性が過去の研究で示唆されている。しかし、方向認知障害と姿勢障害の関連性を詳細に検討した学術研究は少なく、未だ十分に明らかではない。本課題では、脳卒中患者における方向認知障害と姿勢障害の機能的な関連性を検証するとともに、脳画像を用いて方向認知障害に関わる脳領域を調べることとした。 最終年度である本年度は、新たに18例のデータを取得し、計38例のデータ(方向認知障害、運動麻痺や感覚障害などの機能障害、姿勢障害、脳画像)を取得した。また、健常高齢者のデータ(方向認知課題のみ)も20例取得した。研究開始当初はMR画像を取得する予定であったが、入院患者のMR撮像が臨床上困難であったため、研究計画を変更しCT画像で代用することとした。方向認知障害の程度は、直立位および身体傾斜位において重力または身体軸方向を推定する課題を行わせ、その正確性と安定性により評価した。また、姿勢障害はPostural Assessment Scale for Stroke(PASS)を用いて評価した。 その結果、1)重力方向の推定では、脳卒中患者は健常者と同様の傾向を示す一方で、身体軸方向の推定では、身体傾斜時に生じる主観的身体軸のズレが健常者に比べて有意に小さかった。また、2)脳卒中患者において、直立位での身体軸方向推定の正確性や安定性、重力方向推定の安定性は、PASSで評価される姿勢保持能力と有意に相関した。3)脳画像解析では、側頭葉(下側頭回など)が重力及び身体軸方向の正確性に関与している可能性が示唆された。これらの結果は、重力方向や身体軸方向の認知障害が姿勢障害の一要因である可能性を示すとともに、方向認知障害に関わる神経基盤の理解に貢献すると考えられる。
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