脳の情報処理は行動文脈(今何をしているのか)に応じてリアルタイムに変化(行動文脈依存的修飾)し、行動目的の達成を有利にする合目的性があると考えられている。身体運動は脳機能を変化させることが明らかとなっているが、合目的性の観点から考えると、身体運動による脳機能の変化は、身体運動を最適化させるための脳機能の能動的な現象である可能性がある。つまり、身体運動時は、自己の状態や外部環境との関係性が時々刻々と変化するため、その変化をより鋭敏に感覚・認知して運動へ繋げる働きが重要であり、その身体運動に関わる機能ほど運動により最適化されると考えられる。本研究は、仮想現実(VR)や複合現実(MR)技術を用いて「身体運動による脳機能修飾効果が、スポーツパフォーマンスに関係する知覚・認知・運動制御にどのような影響を及ぼすのか」を検討することを目的としている。 前年度から引き続き「野球のバッティング場面」をVR内に設定し、投手から投球されたボールについての知覚弁別の課題の開発を行い,前年度の投球ボール軌道が現実と異なるといった問題点を改善したが、それにより別の問題点が浮上した。そのため脳情報処理における認知に関わる経路と身体出力に関わる経路の2つの知覚を評価する課題によって、運動による脳機能修飾効果を検討した。その結果、運動は身体出力に関わる情報処理を特異的に改善させていることが明らかとなった。そのため、運動は身体運動を最適化させる脳機能修飾を行っている可能性が示唆される。
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