【はじめに】脳卒中後の自動車運転再開に対する報告の多くは運転シミュレーターが用いられる。これは周囲の状況を知覚、注意、予測したうえで操作するといった、認知して実際に操作・行動するまでの処理一連がすべて実行された最終結果が評価対象となる。一方、半側空間無視の病態特性から考えると、周囲の状況を認知するレベルに主たる停滞があることが予想される。本報告では、自動車運転場面における半側空間無視症状の特性を客観的に把握する評価手法を考案することを目的とした。 【方法】対象は右半球病変をもつ脳卒中患者14名(無視症例10名)、健常者14名で全員運転経験者であった。視線計測装置付きPCモニタの前に座り『あたかも自分が運転するようなつもりで』2分間、運転動画視認中の眼球運動が記録された(TobiiPCEyeGo)。運転動画はフロント部分からドライブレコーダーで撮影され、同環境での左右カーブと右左折が同フレーム数含まれた。 【結果】無視症例は健常者と比較し全体の注視回数が有意に少なく、1回の注視時間が長かったことから、視覚情報取得量が健常者と比較して少ないことが分かる。健常者の場合、カーブの先や右左折時には曲がる方向と逆へいったん視線を向け、その後曲がる方向へ視線を移動させる。これは左右どちらの方向でも同様で各シーンに合わせた視線行動である。一方、無視症例では右カーブや右折では健常と類似した視線偏向だが、左カーブや左折では左空間への予測的な視線探索が乏しかった。加えて、左折時は危険回避のための右方向へのサッカード回数が有意に少なかった。 【まとめ】運転動画の視線分析は無視症状の特徴抽出の一助となる可能性が示唆された。加えて、抽象的な動画と比較し左空間へ視線が大きく移動する例が散見されたことから、運転場面という経験を伴う文脈要素によって無視空間への気づきを高められる可能性がある。
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