研究課題
糖尿病でかつ高血圧を示す生理的2型糖尿病モデルマウスは、6ヶ月齢以降で海馬依存的記憶学習能の低下を呈する時、海馬インスリンシグナル受容体基質1(IRS1)の特定セリン残基のリン酸化が随伴する事が所属研究室から報告されていたが、この海馬IRS1の変化が他種の記憶学習能の低下にも関与するのかについては明らかでは無かった。2型糖尿病と同様に、1型糖尿病によっても記憶学習能の障害が誘導される事が知られているため、今回、ストレプトゾトシン誘導性インスリン欠損糖尿病モデル(STZ)マウスを作成し、海馬IRS1の変化について解析を行った。その結果、STZマウスは海馬依存的記憶学習能の低下は観察されなかったが、海馬と前脳に関与する記憶学習能が有意に低下する事が判った。しかしながら、この時、海馬IRS1セリンのリン酸化の変化は見られなかった。他方、加齢に伴う代謝機能の低下と同様に観察される記憶学習能の低下には、2型糖尿病と同様に、海馬IRS1の特定セリンのリン酸化が連動する事を突き止めた。これらの結果から、1型糖尿病に起因する記憶学習能障害は、海馬IRS1とは独立して誘導され、一方で、加齢に伴う生理的な記憶学習能低下には海馬IRS1のセリン残基の活性化が関与する事が示唆された。海馬IRS1の特定セリンのリン酸化は、1型糖尿病以外の記憶学習能異常のマーカー候補となる可能性が考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、2型および1型糖尿病モデルマウスおよび老齢マウスなど、代謝異常を伴う記憶学習能異常モデルの多種マウス用いて、脳IRSsシグナルと記憶学習能の関係を比量的に検討する事を計画していた。今回、海馬IRS1シグナルの変化を指標として解析を実施し、結果を得る事ができたこと、更に、結果をまとめた論文をすでに投稿している状況にあることは、順調に研究が進行している事を反映していると考える。一方で、当初の計画だったモデルマウスにおける追加の血圧増加の誘導は困難である事が分かったため、この影響は研究結果には含まれていない。そのため、「おおむね順調に進展している」を選択した。
海馬IRSシグナルの変化を指標として、他種の記憶学習能異常モデルである次世代型アルツハイマーモデル(APPKI)マウスを用いて解析を行う。当該マウスは、若齢、中年期以降で解析を行うと共に、2型糖尿病を発症させたモデル(DIO-APPKI)マウスを作成し、同様の解析を行う。
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