本課題では転倒リスクの高い脳卒中片麻痺患者の歩行時の動的安定性の制御様式と身体活動量について調べた。過去6ヶ月間に転倒歴のある脳卒中片麻痺患者(転倒群7名)、転倒歴のない患者(非転倒群9名)、及び健常高齢者(12名)を対象として、連続する5日間の歩数を身体活動量計にて計測した。さらに、7mの直線歩行を光学式3次元動作解析装置で計測した。身体活動量は群間での相違がなかった。矢状面、前額面、及び水平面における角運動量(身長、体重、及び歩行速度で正規化)は転倒群及び非転倒群の両方で健常高齢者より大きかった。さらに、身体各部位の角運動量に対する貢献度を算出した。健常高齢者と比較した場合、転倒群においてのみ、矢状面における頭部の貢献度が大きく、前額面における体幹の貢献度が大きかった。 本課題は転倒リスクの高い脳卒中片麻痺患者の歩行時の動的安定性制御に対する身体各部位の貢献度を分析した初の試みである。本課題では歩行時の動的安定性の指標として近年注目されている歩行時の角運動量を使用した。さらに、実社会での歩行能力(転倒歴の有無及び身体活動量)と実験室内での詳細な歩行データ(角運動量)を同時に計測及び分析した点は学術的意義が大きい。本課題の社会的意義は、転倒リスクが高い脳卒中片麻痺患者が、角運動量を制御する際に上半身の貢献度を高めていることを明らかにした点である。転倒リスク軽減を目的に開発した装具療法や運動療法の効果を検証する際に注目すべき点を示唆した。
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