本研究は、近年増加傾向にある慢性腎臓病について、妊娠期の過剰なリン摂取が新生児の発育やエピゲノム変化に及ぼす影響を明らかにし、胎児期から将来の慢性腎臓病発症を予防する新しい栄養管理法の確立を目指すものである。初年度の研究では、妊娠期の過剰なリン摂取が新生児の発育やリン・ビタミンD代謝に及ぼす影響を明らかにすることを試みた。その結果、妊娠期に高リン食を投与した母マウスから生まれた新生児マウスの3週齢時点において、尿中リン排泄量の有意な減少が確認された。このことから、新生児は体内にリンが貯留しやすい変化が生じていることが考えられ、将来的に血中リン濃度の上昇や腎機能低下を引き起こす可能性が考えられた。一方、成長期マウスに高リン食を投与することで発現低下を認めた腎臓のα-klotho遺伝子については、有意な変化を確認することができなかった。このことから、ライフステージごとで高リン食投与がリン・ビタミンD代謝に及ぼす影響が異なることが示唆され、改めてライフステージごとのリン摂取管理の重要性が示された。最終年度は、胎児期に受けた母体の過剰なリン摂取による影響が、成長期の過剰なリン摂取に対する反応性に及ぼす影響を明らかにすることを試みた。その結果、高リン食を投与した母マウスから生まれた仔マウスは、通常食を投与した母マウスから生まれた仔マウスと比較して、過剰なリン摂取時において、尿中リン排泄量の低下傾向が確認された。さらに、胎児期における母体のリン摂取状態は、成長期の過剰なリン摂取時において、腎臓のリン・ビタミンD代謝関連遺伝子発現に影響を及ぼすことが確認された。以上より、妊娠期における過剰なリン摂取は新生児のリン代謝異常を引き起こし、母体のリン摂取状態の違いは、成長期の過剰なリン摂取時に引き起こされるリン代謝異常の程度に影響する可能性が示唆された。
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