研究実績の概要 |
加齢性筋機能低下症(サルコペニア)は、各種疾患の誘因であるとともに健康寿命を低下させることから、その予防が急務である。またサルコペニアには筋機能低下のみならず支配神経の変性が関与することから、筋に加え支配神経の機能維持・改善が重要であると考えた。本研究では、神経系疾患や代謝異常症への治療法として用いられてきたケトン食(KD)に着目し「KDが骨格筋と神経へ作用する分子メカニズムの解明と、KDによる骨格筋と神経の機能低下の抑制」に挑むこととした。 2018年度は、培養骨格筋細胞におけるケトン体の作用機序の解析および②生体においてケトン食が骨格筋、神経、神経筋接合部へ及ぼす影響の解析を検討課題とした。 課題①を検証するために筋細胞(C2C12)を培養・分化させケトン体を添加し、分化後の筋管細胞に出現する神経筋接合部の形成に変化が生じるかを検討した。その結果、ケトン体を添加した筋管細胞としていない筋管細胞では、両条件間で神経筋接合部の形成数が異なる様相を観察した。 次に検討課題②を検証する前に、C57BL/6Jマウスを対象としてKD介入の適切な条件を決定することとした。KD(糖質: 0%,脂質: 90%,タンパク質: 10%)または通常食(糖質: 80%,脂質:10%,タンパク質: 10%)を12週間摂取させその後解剖を行なった。期間中、2週毎に実施したインスリン負荷試験では、KD群(n=6)は6週間目において血糖値が通常食群(n=7)より有意な低置を示し、12週間時点での血糖値は通常食と相違なかった。また12週の時点で摘出した腓腹筋を、神経と筋を架橋する神経筋接合部の形成に寄与するPGC-1αやMuSKタンパクの発現をウエスタンブロット法にて通常食群と比較したところ、群間に有意な差は確認されなかった。以上からKDが身体へもたらす影響は、介入期間によって異なる可能性が示された。
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