研究実績の概要 |
本研究では筋細胞外脂肪 (EMCL) の性質やその生理学的意義を明らかにすることを目的とした.対象者は平均年齢71歳の高齢者35名であった.測定は48時間以上の間隔を開けた2日間で実施された.1日目の測定では採血および磁気共鳴分光法 (MRS) を用いて,血中の脂質,糖質および炎症性サイトカイン,EMCLおよび筋細胞内脂肪 (IMCL) を測定した.各測定は外側広筋への電気刺激前後の2回実施された.2日目の測定では,最大筋力,筋持久力および身体機能テスト (床立ち上がり,30秒いす座り立ち,握力,5m通常速度歩行,5m最大速度歩行,Timed up and go テスト) を行った.また2日目の測定以後,3D加速度センサーを内蔵した活動量計を用いて,14日間の日常身体活動量を記録した.MRSにてEMCLおよびIMCLが測定できた女性17名を対象に,外側広筋から測定されたEMCLとIMCLの関係を検討したところ,これらの値には有意な相関関係が示されなかった (r = -0.25, P = 0.34).またEMCLおよびIMCLと関係する要因をステップワイズ重回帰分析にて詮索したところ,EMCLの説明要因として筋エコー強度と筋厚が選択され,IMCLの説明要因として床立ち上がり時間,体脂肪量および血糖値が選択された.次にEMCLおよびIMCLが測定できた男女23名 (EMS群 18名およびコントロール群5名) を対象に,血液パラメータ,EMCLおよびIMCLを電気刺激前後で比較した.その結果,血中における脂質,糖質および炎症性サイトカインの値に変化がみられた一方で,EMCL・IMCLともに有意な変化が見られなかった.以上の結果から,高齢者におけるEMCLは,IMCLと異なる特徴を持つこと,筋収縮に伴う急性の代謝変化に応答しないことが明らかとなった.
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