フロア・フィールド(FF)法は、移動確率が最大となる方向に格子上で粒子を移動させるセル・オートマトンであり、群衆行動の本質的な振る舞いを再現できる反面、粒子間の微視的な相互作用の効果を厳密に捉えることは苦手である。一方、粒子間の相互作用を精緻にモデル化できる粒子法は計算負荷が極端に高い特徴がある。本研究では、これらの異なる計算手法を演算加速器とスカラー型プロセッサが混合するヘテロジニアス型計算機の特性を活かしつつ連成することにより、ミクロな相互作用の波及効果を捉えることができる応用度の高い群衆行動のマルチスケール解析の実現を目指す。計算力学・計算工学的な観点から学術的な意義が大きいだけでなく、粒子間相互作用のモデルを変更することで様々な応用問題に適用でき、実社会に有益なツールの構築が期待できる。開発したフレームワークでは、巨視的な集団ダイナミクスをFF法によって計算し、システムを構成する粒子間の微視的相互作用をラグランジュ粒子法である個別要素法(DEM)や平滑化散逸動力学法(SDPD)によって再現する。ヘテロ型の計算機に搭載されたスカラー型プロセッサ上でFF法を実行し、演算加速器 (GPU) 上で粒子法計算を実行するよう実装されている。空間充填曲線を用いたコア間の負荷分散や粒子毎に保持するローカルリストの導入によってシステム全体で計算アルゴリズムの最適化を図り、実問題に対するシミュレーションによりフレームワークを実証した。本研究はFF法と粒子法という全く異なる領域の計算手法を連成しようとする萌芽的な研究であったが、フレームワークの構築に加え、粒子法の数値計算モデルの検証、セル・オートマトンと粒子法の連成方法を模索する過程で関連分野においても有用な知見が多数得られ、研究業績にあるように各分野で評価の高い査読付き論文誌に掲載されたことは予想を上回る成果であった。
|