最終年度は、愛媛大学・生物環境試料バンク (es-BANK) の凍結保存試料を活用して、二枚貝と堆積物に残留する有機ハロゲン化合物の濃度や組成プロファイルを地理的・経年的視座から解析した。また昨年度に引き続き、未同定化合物の構造・起源推定を試み、それらの環境動態や生物蓄積性を評価した。 二枚貝から検出された未同定有機ハロゲン化合物のマススペクトルを詳細に解析した結果、示性式はC9H6Br3ClO (5異性体)、C9H5Br4ClO (3異性体)、C9H4Br5ClO (1異性体) と推定され、3種の同族体 (9種の異性体) の存在が確認された。このミックスハロゲン化合物は製造実績がないにもかかわらず、二枚貝と堆積物から広く検出が認められ、沿岸域に遍在していたことが明らかとなった。 二枚貝に蓄積していた多様な有機ハロゲン化合物 (人工汚染物質、海洋天然物質、起源未知物質) は堆積物からも同様に検出されたが、それらの組成プロファイルは明らかに異なっていた。なかでも、起源未知のミックスハロゲン化合物は、堆積物には比較的低濃度で残留していたのに対し、二枚貝には高蓄積していたことが判明した。また、二枚貝から確認された上記ミックスハロゲン化合物の同族体 (異性体) 組成は、採取地点や年代間で明確な差異が認められなかったことから、その特異な曝露源は沿岸環境中に存在することが示唆された。 二枚貝と堆積物に残留していた既知・未知有機ハロゲン化合物の生物相-堆積物蓄積係数 (BSAFs) を算出した結果、起源未知のミックスハロゲン化合物は残留性有機汚染物質 (POPs) に比べBSAFsが1桁高く、二枚貝に対する高い生物蓄積性が示された。このことから、低次-高次栄養段階生物を対象とした包括的なモニタリング調査に加え、生態毒性リスクの評価が今後求められる。
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