研究課題
本研究は、北西太平洋の寒流域において春季から秋季に発生する海霧において、大都市などの大規模人為汚染源が無いにも関わらず時折pH3程度の酸性霧が観測されてきたことから、北海道東部太平洋側の沿岸部において、海霧の酸性成分の由来をイオウの安定同位体比分析によって解明することを目的とした。また霧イベントごとに異なる微気象条件との関連性を分析するため、遠隔地でイベントごとに霧を継続的に採取できる機器の開発も目的とした。まず、霧採取器の開発を行ない、野外での採取テストを行ったが、海霧が発生する期間に間に合わなかったため、実際に採取できるかは確認できなかった。霧発生器を使った室内実験では予定した機能は発揮できたので、屋外でも十分使用できるものと考えられた。また、北海道の太平洋側の3地域で採取した地衣類を材料としてイオウの安定同位体比を測定した結果、いずれの地域でも海岸線から内陸に向けてイオウ安定同位体比が指数関数的に減少しており、いずれも5 ‰前後で平衡に至った。これは全球の天水のイオウ安定同位体比とほぼ一致することから、内陸部では沈着するイオウの起源は天水であると考えられた。一方、推定された海岸線におけるイオウ安定同位体比は7~13 ‰と内陸より高く、また採取地周辺ではいずれも大都市や大型工場などが存在しないことから、海由来の寄与が高いと考えられた。海岸線におけるイオウ安定同位体比は3地点のうち最も東の厚岸で最も高かったが、次いで最も西の日高が高く、3地点のうちで中央に位置する日高で最も低かった。海霧の年間発生日数は東から西に向かって次第に減少するが、イオウ安定同位体比では異なった傾向を示した。これは、沈着を支配する卓越風の風向などの微気象によると考えられた。
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