初年度においては、ゲノム編集技術や合成生物学を中心に、最先端の生命科学や関連する倫理的・法的課題の動向について俯瞰した。次年度には、主に国内のゲノム情報の規律に関する経緯や最近の動向について資料・情報を収集・整理した。本研究で対象とした規律は、「遺伝子解析研究に付随する倫理問題等に対応するための指針」(旧厚生科学審議会先端医療技術評価部会 平成12年策定)や「ヒトゲノム研究に関する基本原則」(旧科学技術会議生命倫理委員会 平成12年策定)、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(文部科学省・厚生労働省・経済産業省 平成13年策定)等である。昨年度は、ゲノム研究という枠組み(事例)において、行政指針等の約20年間の経緯を再考することにより、3つの主要論点を取りまとめ、論考という形で公表した。 最終年度は、このような規律の実社会面での意義や有用性を検討するため、ゲノム医療に関するパブリック・コミュニケーションの現状や、ゲノム情報の取り扱いに関する市民意識調査から得られる知見の意味合い、近年重要な役割を担ってきているバイオバンクやデータベースの実情等について考察を深めた。本論点に関しては、副次的に、関連研究課題とも連携する形で米国や英国、イスラエルの研究者との共同研究を実施した。結果として、ゲノム研究の進展・変容やゲノム医療に関わる政策と規律の制定・改定、さらにはその一般市民に対する啓発等との相互調整を今後図っていくことの必要性が浮き彫りとなった。特に、ゲノム情報の相違は、個々人や家族のみならずエスニシティ・民族等といった側面においても生じるため、研究や医療や政策や規律、そして市民による認識との相互接続に向けては、国際的な視野や認識が一層求められることが浮き彫りとなった。
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