最終年度も引き続きビンガムトン大学と協力してデータ解析・可視化を継続した.またブリストル大学と共同研究を開始し,個々人の挙動パラメータの値にばらつきがあった場合に社会ネットワークの進化にどのような影響が現れるかを計算的に解析した.その結果,個人の挙動にばらつきのある社会ではそうでない場合に比べ意見の極端化がより進行し,一方で社会分断の進行は抑制される,という興味深い知見が得られた.これは,個人の挙動の多様性が意見の多様化と社会構造の接続性の双方を両立する効果を持つことを示し,研究代表者が推進する他の科研費プロジェクトの結果(使用しているモデルの枠組みは全く異なるもの)とも整合性があり,この知見の普遍性・頑健性を示している.この成果はALIFE2023に査読論文として採択された.また,先に発表した偏微分方程式モデルについても偏向と人口動態を加える拡張を行い,意見の極端化がより促進され時空間カオス状態が生成されることを見出した.これに関する論文は現在準備中である. また最終年度であるので精力的に研究結果公表を行った(論文1,予稿1,国際会議録論文3,基調講演1,招待講演4,国内招待講演2,国際学会口頭発表3,国際学会ポスター発表2). 期間全体を通じ本研究では,高度情報化社会におけるインタラクションの強化が社会に及ぼす影響について,エージェントベースドモデルによる計算的考察,偏微分方程式による解析的考察,実験やSNSによる実データの解析,の3面から考察を行った.その結果,人々の情報収集能力が高度化しかつ同種親和性が強まるにつれ社会分断と意見の極端化が促進されること,極端な意見は関心を集めやすいこと,個人の意見は変遷するが周囲も同様に変遷するので自身の意見の極端化に気づきにくいこと,新規性を指向する挙動や個人間の挙動のばらつきが社会分断を抑制すること,など有用な知見が多数得られた.
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