これまでの研究で得られたリピドミクス解析(脂溶性代謝産物の解析)の結果とメタボロミクス解析(水溶性代謝産物の解析)結果(挑戦的研究(萌芽)研究課題17K19799)と統合し、論文作成を行い、投稿、受理された(Front Neurol. 2021 Oct 27;12:719159.)。その概要は、アルツハイマー病患者と対照(認知機能正常高齢者)各18名より得た随時尿を用いて網羅的なメタボロミクス、リピドミクスを行った結果、多変量解析による判別分析(OPLS-DA)で、26代謝産物により患者尿と対照尿を効率良く判別することができ、それらの代謝産物のパスウェイ解析では、リン脂質代謝、脂肪酸代謝、カフェイン代謝に関するパスウェイなどが重要であることが示唆された、というものである。 リン脂質代謝は血液や脳のメタボロミクス解析、リピドミクス解析で認知機能低下やアルツハイマー病との関連が指摘されている。カフェイン代謝系は、カフェインの大きな摂取原であるコーヒーや緑茶の摂取量と認知症機能との関連が、我々が行っている村上コホート研究の未発表データ含め、複数の疫学研究で示されている。このようなことを踏まえると、本研究結果は尿を用いた認知症(アルツハイマー病)バイオマーカーの可能性を示唆していると考えられる。 上記研究結果をさらに発展させる目的で、リン脂質代謝系で特に有意であった分子とカフェイン代謝産物にしぼって質量分析による測定条件の最適化を行った。これにより、将来的なバイオマーカー探索研究をさらに進めていくことが可能である。
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