研究課題/領域番号 |
19K21583
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
南 雅代 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 教授 (90324392)
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研究分担者 |
加藤 丈典 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 准教授 (90293688)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 火葬骨 / バイオアパタイト / 結晶性 / 炭素同位体比 / ストロンチウム同位体比 / 分解 |
研究実績の概要 |
骨は、バイオアパタイトを主とするリン酸カルシウム結晶とコラーゲン繊維を主とする有機分子からなる構造をしており、バイオアパタイトは、アパタイトのリン酸基あるいは水酸基が炭酸基に置換した形で存在している。骨は高温で加熱されとコラーゲンが損失するとともに、バイオアパタイトがヒドロキシアパタイト化し、アパタイト結晶のサイズがナノメートルサイズに抑制されることにより、土壌中で自然に分解されにくい状態となる。現在の火葬炉の温度は800~1200℃とされており、高温で加熱されているため、火葬骨は分解しにくく、年月が経ても残存する状態になっている。本研究では、このような火葬骨を、強力な酸・アルカリによって急激に分解するのではなく、徐々に分解する手法を開発することを目指している。 まず、骨の結晶構造に他の元素が入り込むことによって、アパタイト結晶のサイズが広がり、分解しやすくなる現象を明らかにするべく、骨への元素の取り込み実験を行なった。現生骨を450℃、600℃、750℃、900℃で加熱したもの、未加熱の骨、鉱物アパタイト試料を、質量数84のストロンチウム(Sr)同位体が濃縮したスパイクを含む炭酸ストロンチウム溶液に浸す実験を行い、1日後、3日後、1週間後、2週間後、1ヶ月後、3ヶ月後、半年、1年後に取り出して、骨への元素の取り込み過程を調べた。その結果、600℃以下で加熱した骨は、時間経過に伴い、炭素濃度・同位体比、Sr濃度・同位体比が変化する一方、750℃以上で加熱した骨は値の変化がほとんど認められなかった。アパタイトの結晶性と元素の取り込みに関しては明瞭な相関が認められ、高温加熱が、骨を分解しにくくすることが明らかになった。今後、酢酸あるいはクエン酸を用いて、骨を徐々に分解させる実験、ヒドロキシアパタイトの水酸基のサイトに炭酸基を置換させる実験を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の前半は新型コロナ感染拡大がおさまらず、テレワークを要請されたために、大学で実験できる時間が限られ、計画していたいくつかの実験を進めることができなかった。年度後半になって、大学での実験遂行が可能になり、質量数84のストロンチウム(Sr)同位体が濃縮した炭酸ストロンチウムを溶かした液に浸した骨試料の化学分析を一部進めることができ、興味深い結果が得つつある。 ヒドロキシアパタイトの水酸基のサイトに炭酸基を置換させる促進剤として炭酸カルシウムを共存させる実験を計画し、炭酸カルシウムに弱酸を加えて密閉内で二酸化炭素を発生させるための反応容器を製作した。この容器を用いると、酢酸あるいはクエン酸(0.01-0.1 mol/L)を用いて、骨を徐々に分解させる実験、二酸化濃度10%の雰囲気下での骨分解実験も可能となる。これらの研究を実施するため、本研究課題の研究を来年度に繰越し、計画している実験を早急に行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、骨への元素取り込み実験から、アパタイトの結晶性と元素の取り込みに関しては明瞭な関係が認められ、高温加熱が、骨を分解しにくくすることが改めて明らかになった。骨のアパタイトの結晶性を数値化し、元素の取り込み過程を結晶化学的に解明し、結果をまとめて短報として論文にする。 さらに、酢酸あるいはクエン酸(0.01-0.1 mol/L)を用いて、徐々に骨を分解させる実験、ヒドロキシアパタイトの水酸基のサイトに炭酸基を置換させる促進剤として炭酸カルシウムを共存させる実験、二酸化炭素濃度を10%にした雰囲気下での実験を、今年度開発した反応容器を用いて順次行なっていく。現在、再び新型コロナ感染が拡大しているため、どこまで、実験を進めていけるか不明な点はあるが、できる限り推進していきたいと思う。 以上の得られた結果をもとに、火葬骨を、急激にではなく、自然の土壌中の分解に似せて徐々に分解する手法、かつ、普通に手に入る毒性のない化学試薬・反応を用いて環境に優しい手法を確立するための基礎データを揃え、最終的に論文としてまとめる。今後、ますます高齢化社会となり、火葬骨の残存問題を解決することは、社会的に重要と考えられる。是非とも、得られた結果を社会へ還元してきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の前半は新型コロナ感染拡大がおさまらず、テレワークを要請されたために、大学で実験できる時間が限られ、計画していたいくつかの実験を進めることができなかった。年度後半になって、一部の研究は進めることができ、興味深い結果が得つつあるが、業者の人もテレワークとなり、実験消耗品などの納入も遅れ気味となり、順調に研究を進めていくことができず、次年度にいくつかの実験は持ち越しとなった。そのための経費を翌年分として請求した。 請求した助成金は、ヒドロキシアパタイトの水酸基のサイトに炭酸基を置換させる促進剤として炭酸カルシウムを共存させる実験、酢酸あるいはクエン酸(0.01-0.1 mol/L)を用いて、骨を徐々に分解させる実験、二酸化濃度10%の雰囲気下での骨分解実験を行う。
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