研究課題
Alzheimer病の根治的治療には、発症前からの脳内Aβペプチド蓄積に対する介入が不可欠とされる。脳Aβ蓄積の最大のリスクは加齢であるが、その分子メカニズムは不明である。本課題では、脳Aβ蓄積開始に対する循環性リスク因子に関する理解を深め、分子メカニズムの解明からリスク制御を可能にする方策の開発を目指している。脳Aβ蓄積をきたすモデルマウスを用い、老若個体からAβ蓄積のリスクに関与する加齢依存的循環因子を探索するため並体結合を行った。老若並体結合には、脳Aβ蓄積の開始月齢が明らかにされているヒト化変異型Aβ前駆体ノックイン(APP-KI)マウスと相手マウスに移行した細胞成分が同定可能な緑色蛍光全身発現GFP-Tgマウスを用いた。APP-KIマウスのうち、変異型によるApp(NL-F)及びApp(NL-G-F)マウスはそれぞれ12ヶ月齢、3ヶ月齢で脳Aβ蓄積が始まることが知られる。令和2年度は、昨年度に引き続き、APP-KI マウスとGFP-Tgマウスの並体結合を行った。並体結合APP-KIマウスの脳Aβ蓄積を定量的に評価した結果、若齢マウスとの並体結合により老齢APP-KIマウスの脳Aβ沈着は明瞭に抑制された。逆に、野生型老齢マウスと若齢APP-KI マウスとの並体結合では、脳Aβ沈着は促進されていた。いずれも、APP-KIマウスへのGFP陽性細胞の浸潤は認めなかった。以上から、若齢マウスの循環因子に脳Aβ蓄積を強く制御する因子が、また老齢マウスの循環因子に脳Aβ蓄積を促進する因子が存在することが示唆された。これを受け、血液サンプルの調整と当該マウス脳の採取を進めるとともに、因子の同定に向けた解析に着手している。
1: 当初の計画以上に進展している
APP-KIマウスとGFP-Tgマウスの並体結合を進め、若齢マウスに脳Aβ蓄積を強く制御する循環因子が、また老齢マウスには脳Aβ蓄積を促進する循環因子が存在することが示唆された。今後、これら循環因子の同定を試みるが、進捗は計画通りであり、予想以上に興味深い結果が得られつつある。
(1)網羅的解析による目的因子の同定:目的因子の存在が示唆された結果を受け、当該マウス血清タンパク質の分子サイズ等による分画化から候補因子を絞り込む。また、若齢および老齢野生型マウスの血清中全ペプチドを安定同位体標識しLC-MS/MS解析することで発現に差のあるタンパク質をリスト化し、脳Aβ蓄積に対する効果を評価し候補因子を同定する。(2)目的因子の機能解析:培養細胞ないしAPP-KIマウスを用いて候補因子がAβ産生系及びAβ分解系、Aβ排出系に効果を示すか、またそのメカニズムを解析する。また、ヒト剖検脳組織あるいは患者血清を用いた解析を行い、候補因子の発現レベルと脳Aβ蓄積ないし認知機能との相関性を評価する。
研究は順調に進んでいるが、新型コロナ感染症の影響により、目的因子の同定に関わる一部試薬の調達が遅れ次年度に繰り越した。
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