味覚機能の低下は食欲の低下を生み、ひいては健康な生活を脅かすことになる。我々の味蕾は常に再生を繰り返すが、加齢により再生能力が低下すると味覚感度が落ちる。結果として、高齢者は塩分の取りすぎなど不健康な食生活に陥り、また、味を楽しめないために食事の機会やその際のコミュニケーションも減り、認知症等のリスクも増加する。本プロジェクトの目的は、味覚機能の低下をいち早く検出すると共に、世界に先駆けて霊長類の味蕾培養系を構築し、将来的な味蕾移植の可能性を探索するものである。研究組織としては京都大学ヒト行動進化研究センター(代表:今井)と東京農業大学(分担:岩槻健教授)の共同研究として実施した。本研究では(1)味覚機能の低下の検出と(2)味蕾移植の可能性探索を行った。以下にこれまでの実績を示す。 (1)味覚機能の低下の検出 健常成人に対して受容体の遺伝子型判定や官能試験を行い、それぞれの遺伝子型がどの程度味覚感度に影響するか推定した。具体的にはTAS2R38とTAS2R43の遺伝子型判定を実施しながら、ハプロタイプごとの苦味感受性を検討した。その結果、健常成人では年齢が高くなっても味覚感受性はそれほど低下しないことが示唆された。 (2)味蕾オルガノイドの作成と評価 サルの味蕾および腸管オルガノイド(幹細胞由来の培養細胞系)を応用して、味細胞や味覚受容体発現上皮細胞を誘導し、発現遺伝子をRNAseqにより検討した。消化管オルガノイドにおいては、小腸からタフト細胞を多く含む条件において発現変化する分子を網羅的に解析した。
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