研究課題/領域番号 |
19K21598
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研究機関 | 沖縄科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
森山 陽介 沖縄科学技術大学院大学, サイエンステクノロジーグループ, 研究員 (00452532)
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研究分担者 |
河野 恵子 沖縄科学技術大学院大学, 膜生物学ユニット, 准教授 (30632723)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞膜損傷 / PDL / 膜修復 / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
本申請の研究目的は、細胞膜が損傷し修復されること自体が、膜修復後の細胞周期に影響を与えることを証明した上で、その機序を培養細胞を用いて明らかにすることである。また、この膜損傷と修復に伴う細胞周期の変化の影響は全身に影響が及ぶことから、膜損傷による膜構造の変化と遺伝子の発現変動を指標にマウスの全臓器/器官から特にキーとなる臓器や組織を探索することである。以上を踏まえ全身での膜損傷に由来する細胞周期の変化や意図せぬ停止をコントロールする手法を探索することを本申請を萌芽とする研究の究極的な目標としている。 当該年度の研究実績としては、本研究でみられる細胞周期の変化の初期応答は細胞膜損傷にひきつづく膜修復機構に関連した細胞外から細部内への物質の流入によるものであることが原因の一つであることがわかった。 細胞膜が継続的に損傷し修復されているステージと、膜損傷がこれ以上加わらなくなった状態の初期および数日ごとの遺伝子発現の網羅的解析からは、既存の細胞周期の制御因子とは異なる遺伝子群がドラスティックに変化し、細胞の増殖能を変化させるに至っていることがわかった。一方、無限の増殖能をもつがん細胞では膜損傷に伴う遺伝子群の発現変化およびタンパク質の発現量変化は正常細胞と同様であったが、その後の遺伝子群の発現変化は維持されず、増殖能は損なわれなかった。これらの遺伝子群の比較から表現系の制御を行うものの候補を選び、細胞と個体での膜損傷に伴った発現と局在の変化を微細に観察する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に予定していたのは培養細胞を用いて細胞膜損傷に伴う細細胞周期の停止に関与する遺伝子群候補のリストアップであり、線維芽細胞を用いた粘り強い条件検討により各知流された最適な実験系を完成させたこと、形態や構造に基づいた表現系の変化に応じたタイムポイントの試料を高い純度で用意したことで、タンパク質発現解析および次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析について良好な結果を得ている。また、線維芽細胞を用いては、DNA損傷による細胞周期の停止と本研究との差異を明らかにすることも進めており、大きな違いが見いだされている。 膜損傷に由来する細胞周期の停止については、特異的なマーカー遺伝子の発現をマウス個体での全身において検討することとしており現在マーカー遺伝子候補の確認を進めているところである。全身における観察は、組織透明化の手法を導入することとし、最適な手法の選択を終えた。 新型コロナ禍があり、思うように進められない事項もあったが、総じて予定していた研究は順調に進められていると言える。学会活動等の旅費に関しては、新型コロナの蔓延に伴い、使用を控えることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の予定としては、経時的なサンプリングと次世代シーケンサーによる解析から得られた本現象に特異的なマーカー遺伝子候補について、確認を進めていく。 さらに、この細胞周期の停止にともなう細胞膜構造、細胞内膜系の構造及び、細胞外環境からの流入物質およびシグナル物質について、適切な観察系の開発も含めて顕微鏡下で変化をとらえる。2021年度前半は主に線維芽細胞を用いるが、観察系の確立後はマウスの個体/器官レベルで行い、組織透明化と組織化学染色の組み合わせを用いてマウス全身における細胞膜損傷と細胞周期停止のホットスポットの探索を行うほか、電子顕微鏡による超微細三次元細胞構造観察を行う。特に、非分裂組織であり分泌や筋収縮が膜損傷の原因と考えられる神経・心筋・骨格筋と、分裂組織であり細胞分裂による細胞膜の切断が複数生じる消化管上皮・造血系・毛母細胞に分け解析をするほか、経年により受精能が低下する卵細胞と、分裂を盛んに行うが機能低下を伴わない幹細胞/多能性幹細胞などにも着目する。 細胞膜損傷のホットスポットの同定については、膜損傷の予防あるいは膜損傷とその修復に伴う細胞内環境の変化を解消するための遺伝子操作の試みを線維芽細胞とマウス個体の当該組織において行う他、膜損傷に伴う細胞周期の停止に関与するシグナル伝達系の特異的な因子について阻害剤などを用いて細胞周期の停止を防ぐことで細胞/組織/個体の機能低下を抑止できることを実証していく
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