研究課題/領域番号 |
19K21599
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研究機関 | 愛知県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
曽我 倫久人 愛知県がんセンター(研究所), 腫瘍制御学分野, 研究員 (60332714)
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研究分担者 |
猪子 誠人 愛知医科大学, 医学部, 講師 (30393127)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 前立腺癌 / 上皮分化 / 上皮幹細胞 / カルシウム / アクチン / QOL / 超高齢社会 |
研究実績の概要 |
前立腺がんは、個別な対応が必要であるにも関わらず画一的な治療が行われているため、治療によるQOLの低下が潜在している。前立腺がん患者が社会と共生するには、QOL維持を目指し、がんに特有の遺伝子・タンパク質を個人レベルで発見し、「精密医療」に基づいた「分子標的薬」の開発が必要である。 泌尿器がんを専門とする研究代表者は分担研究者(猪子誠人)と共同で、前立腺生検検体から細胞の個性を個人レベルで見つける全く新しい細胞培養システムを開発した。本研究体制は、患者を診療し術前生検を行う研究代表者(曽我)、病理診断を行う研究協力者、コピー生検からがん幹様細胞を取り出し詳しく解析する研究分担者(猪子)からなる。これをもとに、高齢前立腺がん患者個々人の細胞特性を理解・収集し、QOL維持に最適な治療方法・治療薬を個人レベルで分析・選択できる方法の新規開発を目指す。これにより、生産者も高齢者も共に社会参加できる、生きがいのある新たな共生社会が見えてくる。 これまでにがん症例から得た新知見の一例では、「単層+癒合型」の中程度悪性を示す検体は、培養幹細胞も同様の組織異常を示すだけでなく、細胞分裂に大切な微小管が弱い特徴を示した。同時に細胞の健康維持に大切なチェックポイントタンパク質の消失を認めた。これらの予備データから、この前立腺がん患者のがん細胞では異常な細胞分裂が起こってもそれを治すことができず、染色体や遺伝子の傷が蓄積されてがん化するというメカニズムが考えられた。このように、本法は個人の前立腺がんの病態を細胞レベルで明らかすることができる初めての方法である。 本年度は、癌との比較のために正常前立腺に由来する細胞の分化方法を開発し、その発現比較解析からいくつかの癌関連遺伝子への注目を得た。さらにsiRNAスクリーニングによりそれらの生物学的効果を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発現比較解析で分化中に増加あるいは低下する遺伝子群を選出し、siRNAスクリーニングで生物学的効果を確認した。その結果、分化を促す遺伝子群として、ある種のWnt、上皮以外の増殖因子、ある種のカルシウムチャネルを見出した。また逆に分化を阻害する遺伝子群として、Axin2、ある種のカリウムチャネル、モノアミン代謝酵素を見出した。このことから、これらの新規なものを含む分化促進因子の機能低下および分化阻害因子の機能促進は、共に細胞増殖を促し細胞を癌化に傾ける可能性が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、上記のがん関連遺伝子について、所有する癌検体およびそれに由来する細胞での遺伝子解析を行い、医療標的としての可能性を検証する。またモデル評価系として確立できた細胞には、化合物スクリーニングを施し、新薬開発の可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新たに注目したがん治療標的分子について、siRNAを用いた生物学的機能スクリーニングを十分に行うことができたが、一部次年度使用額が発生した。 次年度では、これを同様のがん検体スクリーニングや、必要な遺伝子工学解析、受託遺伝子解析、化合物スクリーニングに充て、新たながん治療評価系の創出・新薬開発につながるような成果獲得を目指す。
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