前立腺がんは、個別な対応が必要であるにも関わらず画一的な治療が行われているため、治療によるQOLの低下が潜在している。前立腺がん患者が社会と共生するには、QOL維持を目指し、がんに特有の遺伝子・タンパク質を個人レベルで発見し、「精密医療」に基づいた「分子標的薬」の開発が必要である。泌尿器がんを専門とする研究代表者は分担研究者(猪子誠人)と共同で、前立腺生検検体から細胞の個性を個人レベルで見つける全く新しい個別幹細胞培養システムを開発した。これをもとに、高齢前立腺がん患者個々人の細胞特性を理解・収集し、QOL維持に最適な治療方法・治療薬を個人レベルで分析・選択できる方法の新規開発を目指す。 昨年度までに、中程度悪性を示す生検検体の培養幹細胞からは、同様の組織異常を示すだけでなく、細胞分裂に大切な微小管の脆弱性や細胞の健康維持に大切なチェックポイントタンパク質の消失など、細胞生物学的解析の参入による効用を大いに見出していた。同時に、正常前立腺幹細胞の分化方法を癌との比較のために開発し、その発現比較解析からいくつかの新たな癌関連遺伝子への注目を得た。さらにsiRNAスクリーニングによりそれらの生物学的効果を確認した。 今年度はこれを一歩推し進め、前立腺癌個別化細胞パネルとしての整備を進めた。具体的には病理診断に一致するp63陰性クローンを複数取得した。またプロテオーム解析、トランスクリプトーム解析、全ゲノム解析といったマルチオミックス解析を細胞クローンで行い、アノテーションによる個別価値を付加しているところである。一方当初予期しなかった問題として、二次元培養の場合途中で細胞増殖低下が発生したが、特別な馴化培地を開発することでこれを一部解決した。また、馴化培地の代わりとして添加できる成長因子を複数同定し、確認を進めている。 本成果は、発展的に分担者のAMED事業に活かされている。
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