研究課題/領域番号 |
19K21606
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 貴之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (20434607)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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キーワード | 精神医学の哲学 / 科学哲学 / 心の哲学 |
研究実績の概要 |
今年度は、精神医学における医療化の問題についておもに研究を進めた。精神医学に対しては、道徳の問題を不当に医療化しているのではないかという批判がある。このような批判は、精神医学そのものに対してなされることも、特定の精神疾患に関してなされることもある。今年度の研究では、道徳の問題と医療の問題を恣意的ではない仕方で線引きする基準として、いくつかの考え方を検討した。しかし、両者は価値中立的な仕方で線引き可能だという考え方や、道徳的な価値からは中立的な仕方で線引き可能だという考え方によっては、現在の精神医学の実践と合致するような線引きは困難であり、線引きに道徳的な価値負荷性を認める立場は、医療化の批判を招くことになる。さらに、両者の線引きはある問題に医学的な方法によってうまく対処できるかどうかによるというプラグマティックな考え方では、医学的にも道徳的にも効果的な対処が困難な問題を分類することが困難となる。以上のような検討を通じて、線引きをめぐる根本的な問題は、精神疾患概念の価値負荷性と、医療化には適切な事例と不適切な事例があるという直観をどのように両立させることができるかという問題であることが明らかになった。 以上の研究成果は、2021年9月に開催された第117回日本精神神経学会におけるシンポジウム「精神医学における合理性と責任ー哲学的観点から」における提題「精神医学における道徳の問題の医療化」として発表され、今後論文化を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の影響で、本研究課題の2年度目(2020年)および3年度目(2021年)は、研究会の開催や学会への参加などの研究活動を十分に実施することができなかった。その結果、本研究課題で研究を予定していたいくつかのテーマについては、本格的な研究に着手できていない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は令和3年度までの予定だったが、令和4年度まで研究の延長を申請済みである。令和4年度は、研究活動の一部オンライン化を前提としつつ、これまでに実施できなかった研究会などの開催を進める計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、本研究課題の実施期間を1年間延長申請したため、次年度使用額が発生している。次年度使用額は当初予定していた研究会の開催や学会への参加のための旅費や謝金、文献調査のための書籍購入費などとして使用することを計画している。
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