チベットおよびヒマラヤ地域の研究はすでに様々な分野において行われてきたが、未だ研究方法さえ確立していない分野も少なくない。その一つが法学分野である。既に歴史学者たちによるチベットやブータンの法制史研究は存在するが、法律や政治に関する哲学的考察は殆ど行われてこなかった。理由としては、チベット・ヒマラヤ地域の法哲学研究には、①西洋流の法哲学の理解、②古典チベット語やゾンカ語など古典言語の習得、③チベット・ヒマラヤ地域の法の根底に存在する仏教哲学の理解、などが必要となるため、広範囲に亘る学際的な造詣が必須だからである。 既に西洋の法学者の一部が、ヒマラヤ地域を対象とした法学研究を試みているが、古典言語の読解や仏教哲学の理解に大きな欠陥を抱えており、惨めな結果に終わっている。本課題における海外研究協力者である2名の法学者は、①専門分野である西洋の法・政治哲学の理解、②古典チベット語の学習経験はあるものの、③仏教哲学の理解には至っておらず、本格的な法哲学研究を推進できずにいるのが現状である。 2021年度には、国際シンポジウムを開催し学際的な議論を行うはずであったが、コロナウイルスの感染拡大により海外渡航ができず、シンポジウムの開催ができなかったため、研究機関を1年延長することになった。 最終年度となる2022年度には、チェコのチャールズ大学で開催された国際チベット学会に、熊谷とオルテガの両名が参加し、他国から招聘した研究者を交え、チベット・ヒマラヤ地域の法・政治理念と仏教哲学との関係性について、仏教学者と法学者とで共同で学際的な議論・分析を行った。
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