芸術文化活動が社会包摂へとつながるプロセスについては、コロナ禍に遭遇したこともあり、当初想定していた内容とは異なるものになったが、結果的には想定した以上の成果を出すことができた。 一つは、科研費プロジェクトの実施時期に行われた他の研究プロジェクトと連携することにより、多くの事例調査やインタビュー調査を実施することができ、相乗効果が生まれたことである。これらの成果は、『社会包摂につながるアート活動のためのガイドブック』や『社会包摂×文化芸術ハンドブック』シリーズ(日本語・英語、及び日本語版を再編集した書籍『文化事業の評価ハンドブック』)などの形で出版に結びついた。とくに後者においては、評価学の知見を応用することにより、従来広がっていた誤解や思い込みを払拭することができたことに加え、課題解決型の事業と価値創造型の事業を区別することで、社会包摂につながる芸術活動の位置づけを明確にすることができた。 もう一つは、コロナ禍により海外調査ができなくなったため、イギリスの芸術・人文学研究会議(AHRC)の学際的研究プロジェクト "The Cultural Value Project" の成果報告書、 _Understanding the Value of Arts and Culture_ (2016)を翻訳し、出版したことである。その後、日本への応用を考える公開研究会もオンラインで5回実施し、毎回100-200人の方に視聴いただいた。これにより、芸術文化活動が個人や社会にもたらす変化のプロセス(社会包摂につながるものを含む)に関する体系的に理解が日本でも広まった。とくに「体験」から波及効果を考えていこうとする本書の姿勢、また、文化を単独のイベントではなく生態系として理解しようとする本書の姿勢は、効率一辺倒になりがちの日本の議論に一石を投じることとなった。
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