研究課題/領域番号 |
19K21617
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
エグリントン みか 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (50632410)
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研究分担者 |
エグリントン アンドリュー 甲南女子大学, 文学部, 講師 (30707948)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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キーワード | 女性 / アジア / パフォーマンス / 移動 / アジア / オリエンタリズム / フェミニズム / ポストコロニアリズム |
研究実績の概要 |
コロナ禍と時期が重なる2019年3月から産休を取得し、1年間あまり研究から離れていたが、以下の業績を挙げた。 「ふじのくに せかい演劇祭」のオンライン版である「くものうえ せかい演劇祭2020」に翻訳者として参加し、静岡芸術劇場芸術監督である宮城聰による演劇祭の開幕・閉幕メッセージと、宮城とワジディ・ムアワッドの対話を英訳した。唐十郎作『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』の英訳も担当する予定であったが延期となり、公演予定日に不在の劇場をオンラインに流すことにって、「劇場とは何か?」を改めて問い直した。12月には、同劇場の舞台で俳優もマスクを付け、ソーシャル・ディスタンスを守った『妖怪の国の与太郎』(演出Jean LAMBERT-WILD, Lorenzo MALAGUERRA)の英語字幕を担当した。2月には、宮城演出のコロナ版『ハムレット』の再演に当たり「『ハムレット』 時代と自己を映す/疑う鏡としてのハムレット」が『芸術文化』に再掲載された。 8月には、和訳を担当したアンドリュー・エグリントン著「方向/演出を模索する:地図化、物質性、演劇生態」を含む『漂流の演劇 維新派のパースペクティブ』が出版された。 社会と舞台芸術の関係性と女性の位置と表象を探るために2019年度に研究滞在し、2020年度にも引き続き滞在予定であったニューヨークにあるラ・ママ実験劇場にて中馬芳子の活動40年を記念する24時間パフォーマンスにオンライン参加し、彼女の活動を討議した。 京都国際芸術祭においても海外アーティストが来日できなくなり、多くが映像公演に切り替えられた。その一つであるカナダの女性パフォーマーDana Michelによる『Mercurial George』の和訳を担当し、The Japan Timesに'Kyoto Experiment marks a new era’を寄稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年3月から2020年3月まで、産休を取得し、1年間あまり研究から離れていたため、上記の評価とした。産休時期はほぼコロナ禍と重なっており、妊娠がわかる以前に作成した研究計画書に記していた参加予定の国際学会や演劇祭がことごとく中止ないし延期されたため、実質的には産休を取らなくても、予定変更は余儀なくされる結果となった。 一方で、【研究実績】に記した通り、コロナという天災・人災によって、これまで当然視されていた生活様式とともに視覚芸術のあり方が問われる中、現在進行形ゆえに把握し難い状況を、「時代の鏡」とされる舞台芸術が、その鏡の形式と機能をいかに変容させ、何を映し出すのかを問い直す実験的な国際演劇祭やパフォーマンス・プロジェクトへの参加依頼を10本受けた。コロナ禍中で妊娠、出産、産休を体験しつつ、これまで当然視されていた生活様式と、生身の身体を観客の前で晒しながら一定時間を共有するという通常の演劇形態の前提が覆され、Zoomなどを使った新たなる視覚芸術を模索した以下のプロジェクトに依頼参加したことから得られた経験知は計り知れない。 当初の予定とはかなりかけ離れたものとなったために「やや遅れている」との評価としたが、この予想外のコロナ禍の経験と、そこから生じた実績は、別の観点に立つと、「当初の計画以上に進展している」と言えるかもしれない。もしくは、そう言えるように、産休中に得た予想外の実績を活用していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルスの全世界的な蔓延によって、国際演劇学会や英語戯曲翻訳を担当する予定であった静岡文化芸術センターの演劇祭などを筆頭に、国内外の演劇学会や演劇祭、芸術祭がことごとくキャンセルされてしまった。これらのいくつかは、2021年度に延期されたが、筆者が運営委員を務めるWorld Shakespeare Congressや、英語論文"Gendering Shakespeare in 21st century Japan: the case of Kaki Kuu Kyaku's "Nyotai Shakespeare"を8月に発表予定であるEuropean Association of Japanese Studiesを含む国際学会の多くは オンラインでの開催されることになった。 オンラインや国内限定のプロジェクトに関しては、前年度分を繰り越して行う予定ではあるが、2020年の東京オリンピックに対し批評的距離を置きつつ、女性・アジア・移動・水をテーマにしたアジア女性演劇会議を東京で行う予定であったがオリンピック自体が開催予定の2ヶ月となった現時点においても不安定要素を抱えている現状においては、根底から再検討せざるを得ない。 演劇の概念のみならず、人が集う形態、方法、意義が根底から揺さぶられる中、今も一部研究方法を調整中である。集会ではなくオンラインでの意見交換が推奨されている現在、フィールドワークではなくデスクワークを中心に行い、先行きが見えない状況に左右されるのではなく、それらを舞台芸術はいかに写し込むのかをクリティカルかつクリエイティブに読み込み、産休中に得た経験と実績を活用ながら、いまだ包括的な批評書が出版されていないアジア・女性・舞台芸術に加えて、現在も出口が見えないコロナに関する蓄積した知を広く公開・活用できる書籍とウェッブアーカイヴを構築していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月から1年間、産後・育児休暇を取得したため。
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