本研究の目的は、タロコ語(オーストロネシア語族、台湾)の対話の動画付きコーパスを作成して一般公開し、そのデータを用いて談話文法の研究を行うことである。タロコ語は若い世代に継承されなくなりつつある危機言語であるため、今すぐに記録や研究を行わなければ永遠にその機会が失われてしまう可能性が高 い。流暢な母語話者が残っている現時点で、異なる世代の対話の記録を残しておくことは、タロコ族の言語と文化の継承において非常に重要な意味を持つ。また、タロコ語はVOSを基本語順とする能格言語であり対称態をもつなど、言語類型論的に極めて珍しく学術的に重要である。本研究は、タロコ語の対話コーパスを構築し、それを用いて対称態型VOS能格言語の談話内における構文選択がそれ以外のタイプの言語(日本語など)における構文選択とどのような点で共通しどのような点で異なるのかを明らかにし、談話文法理論の発展に貢献することを目指す。 課題申請時の計画では、研究代表者自らが大学院生等の研究協力者をともなって台湾現地を訪れ、タロコ語が流暢な60代以上の母語話者とそれより若い30代・40代のタロコ語話者を対象に独話と対話をビデオカメラで録画し、 録画データをもとに、(i) 発話(タロコ語表記)、(ii) 形態素レベルの区分け、(iii) 文単位の英語の訳、の情報が含まれたデータファイルを作成する予定であった。 しかし、今年度も昨年度に続き新型コロナウイルスの感染拡大の影響で日本から台湾現地に行くことができなかった。そこで現地協力者に依頼して、CHILDESに準拠した動画付きコーパスを作成するための独話ならびに対話の撮影を行った。また、それを文字に書き起こす作業を進めた。
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