研究課題/領域番号 |
19K21627
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
渡辺 己 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (30304570)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | セイリッシュ語族 / スライアモン語 / アクセント / 音韻論 / 音声学 |
研究実績の概要 |
本課題初年度の2019年度は,代表者・渡辺己がこれまで収集してきた音声資料のメタデータの整備を開始し,同時に本課題に関わる音声データの聞き直しをおこなった。それぞれの語について,強弱および高低の特徴を記し,それをデータベースへと記録していった。これは想定していたよりもはるかに時間のかかる作業であり,当初から1年だけでは終わらない可能性は考慮していた。しかしこの作業は,消滅の危機に瀕している言語の,できるかぎり詳しく正確なデータを,将来さまざなな形で利用できるように整備するという,基礎的であり,非常に重要な作業であるので,本課題期間を通して,何度も聞き直し,メタデータも最良の形式に整えていく必要がある。 渡辺己は,2020年1月から2月にかけて,カナダで研究対象のスライアモン語の現地調査をおこなった。そこで,特に過去のデータで録音の質が悪かったデータについて,録音をやり直したり,追加のデータ収拾をおこなった。当該言語を流暢に話せて,伝統的な発音を保っている話者はすでに数名となってしまったが,現地では滞在期間毎日,話者と対峙し数時間に渡る調査をおこなった。 現地調査の期間の前後には,バンクーバーにて研究協力者のパトリシア・ショー氏(ブリティッシュ・コロンビア大学)と会い,それまでの進捗状況を確認し,分析に関して研究討議をおこなった。ここでは,強弱ストレス・ピッチなどと深く関係している音節についても,議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は,挑戦的研究であり,萌芽的なものであり,すなわち,どのように展開していけるかは未知数であった。しかし,海外の研究協力者と,時間をかけて本課題について話し合うことができ,それを通して,研究の進展があったと考えられる。 さらに,対象言語の現地調査をおこなうことができ,この言語を流暢に話せる,数少ない高齢の話者とも,期待以上の調査がおこなえた。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き,これまでの音声データの整備を続けることと,直接話者とおこなう現地調査を,可能な限りおこない,さらに研究協力者とも同じデータを聞きながら,お互いが観察できる音声現象を提示し合い,研究討議を重ねていく。音声解析ソフトのPraatも使い,代表者と協力者が,それぞれどのようにデータを聴覚的に捉えているか考察していく。 初年度に討議をしていく中で,アクセント・ピッチ・母音の長短などと深い関わりがある「音節」について,改めて考えていく必要を感じた。この点については,研究協力者がこれまでおこなってきた,スライアモン語以外の北アメリカ諸言語の調査経験が,非常に重要になることも改めて分かってきたので,それらの言語の音声・音韻現象との比較対照も,できる範囲でおこなっていくのが有用だろうと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外における現地調査をおこなったが,生身の人間を相手にするため,しかもいわゆる危機言語が調査研究対象のため,ごく少数の高齢者を相手にすることになり,日程調整がむつかしいことがある。2019年度は,当初の計画よりも,若干,調査期間が短くなったため,次年度使用額が生じた。ただし,計画よりは短期間になったものの,連日,調査ができ,十分なデータ収集がおこなえた。次年度使用額については,本課題2年目の調査費用,および研究協力者との討議のための,海外渡航の回数を増やすために使用する予定である。
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